“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「何ビビってんだよ、お前」浦和MF武田英寿が戦っていた“恐怖”を振りほどけたワケ【2年目の飛躍】
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byMasashi Hara/Getty Images
posted2021/02/17 11:02
キャンプで好調を維持し、プレシーズンマッチでも結果を残しているMF武田英寿
「(昨シーズンは)本当に苦しかったです。サッカー選手として一番は試合に出ることじゃないですか。それが全然できなくて、練習をやっていても(自分がメンバー外になることが)なんとなくわかるんですよね」
浦和において高卒ルーキーの入団は2016年に作陽高校から加入したMF伊藤涼太郎以来、実に4年ぶりのこと。武田自身も「出番がすぐやってくるわけではない」と厳しい環境へ飛び込むことへの覚悟を口にして臨んでいたはずだった。だが、実際に彼が目の当たりにしたのは、想像以上に自分を縛り付けていた「恐怖」という鎖だった。
「想定はしていたけど、いざそうなってみると辛かったというのが本音。自分のメンタルが弱いなと痛感しました。1年目から積極的にできなかったというか、ミスを恐れてやっていたなと、今思うと感じます」
昨季のキャンプでは軽快な動きを見せ、2020年シーズン初試合となった沖縄SV戦ではいきなりゴール。周囲からすれば、その姿は上々のスタートを切ったかのように映り、メディアには「開幕スタメン」の文字が躍った。しかし、本人の心のうちはその全く逆だったという。
「自分としては『これでは厳しいな』と思っていました。パススピード、DFが寄せてくるスピード、判断するスピード、攻守の切り替えのスピード、切り返しのスピード、あらゆる“速さ”が違って見えていました。そこが最初にぶつかった壁でしたね」
頭ではわかっていたのに
“速さ”には時間の経過とともに適応することができた。しかし、試合に出られないことでの精神的な浮き沈みによって、徐々に自信を失っていったと振り返る。
「自分が一番だとは思っていませんでしたが、高校時代は試合に出ることが当たり前だったので、出場機会がない現状が、いろんな感情にブレーキをかけていたと思います」
プロの世界は部活とは違う。自分から積極的にコミュニケーションを取らないといけないのに。受け身の姿勢だけでは絶対に生き残っていけない世界なのに。頭ではわかっていたが、いざ体験してみると想像以上に心が揺れ動いた。
コンディションが良くて「次、俺を出せば絶対に結果を残せる」と自信を持てる時もあった。それでもメンバーに入れない日々が続く現実に「調子が良いと思っているのは俺だけなのか?」と自己疑念の感情が生まれる。
「最初は認められなくて当たり前と思っていましたが、月日が経つごとに周りの目に敏感になってしまいました。もちろん、何かを言われたわけではないんです。でも練習中にミスをする度、『またお前か』『やっぱりこいつはダメだ』と思われているんじゃないかと、勝手に自分で思い込んでいた。僕自身も『またやってしまったな、ヤバイな』『プロのレベルじゃないのかな』と思ってしまうこともありましたね」
翌日のトレーニングにもネガティブな状態で入ることもあり、そんな毎日からなかなか抜け出すことができなかった。
「このまま埋もれてしまうのか……」
変化が訪れたのは、シーズンが終わろうとしている昨年12月のことだった。