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箱根駅伝は「どちらのナイキ厚底を選ぶか」が明暗を分けた? 10区で逆転、駒澤大に“ミス”がなかったワケ
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byYuki Suenaga
posted2021/01/12 11:04
第97回箱根駅伝の1区スタート直後。ナイキのシューズばかりが目に入る
最新モデルのアルファフライは使いこなすのが難しい
ニューイヤー駅伝でナイキを履いて区間賞を獲得した5人はいずれも日本トップクラスの選手。10000mでいえば27分台相当の走力を持っている。
ナイキとユニフォーム契約をしている中大の藤原正和駅伝監督からこんな話を聞いた。
「アルファフライはスイートスポット(最適箇所)がヴェイパーフライほど広くはないシューズだと思うので、乗りこなせる選手が少ない印象です。でも使いこなせたら、相当なゲイン(利得)をもらえるはずです。一方でヴェイパーフライは万人受けするというか、多くの選手が使いこなしやすいのかなと思います」
ナイキ厚底シューズは1足3万円ほどと高額だ。自費で購入する場合、ヴェイパーフライとアルファフライの両方を試すのは簡単ではないだろう。またトレーニングの段階で、どのように活用していたのかも重要になる。
今回、予選会で落選して19年連続出場を逃した中央学大の川崎勇二監督はナイキ厚底シューズの存在を軽く見ていたという。予選会では12人中10人がナイキ厚底シューズを着用していたが、トレーニングでの使い方までは指導していなかったからだ。
「ナイキと契約している大学は支給されるかもしれませんが、トレーニングの段階でバンバン履くことはできません。かといって当日のレースだけでは、いつもと違うスピード感覚に対応するのは難しいと思います。厚底シューズを履くことでタイムが大幅に上がることは1年前から実感していましたが、トレーニングに落とし込むことができていませんでしたね」
その点、ナイキとユニフォーム契約をしている大学(駒大、東海大、東洋大、中大)は、ナイキ厚底シューズを履く練習と履かない練習を明確にわけている。ヴェイパーフライとアルファフライのどちらを履くかという選択もミスが少なかった印象だ。
創価大のアンカー・小野寺がアルファフライではなく、ヴェイパーフライを履いていれば、駒大の“世紀の大逆転”は起きていなかったかもしれない。
“ナイキ1強時代”に風穴を開けたアディダスも…
ナイキ以外のメーカーではアディダスの動向に注目していた。10月17日の世界ハーフマラソン選手権で5本指カーボンを搭載した“新厚底”の「アディゼロ アディオス PRO」を履いたペレス・ジェプチルチル(ケニア)が女子単独レース世界記録の1時間5分16秒で優勝。12月6日のバレンシアハーフマラソンでも同モデルを着用していたキビウォット・カンディエ(ケニア)が57分32秒の世界記録を樹立していたからだ。
“ナイキ1強時代”に風穴を開けたアディダスだが、今回の箱根では思うように伸びなかった。アディダスとユニフォーム契約を結ぶ青学大ですら9区飯田貴之が着用していただけで、他9人はライバルのナイキを履いていた。