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富士24時間レースで優勝 トヨタ社長・豊田章男がレース前に語った「クルマを壊せ」の真意とは?
posted2020/09/19 20:00
text by
山本シンヤShinya Yamamoto
photograph by
Noriaki Mitsuhashi/N-RAK PHOTO AGENCY
富士スピードウェイで9月4日から6日まで、「ピレリスーパー耐久シリーズ2020第1戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間耐久レース」が開催された。
このレースのST-2クラスで優勝したマシンはGRヤリス……トヨタが20年ぶりに復活させたスポーツ4WDであると同時に、トヨタのスポーツブランド「GR」を支える重要なスポーツ戦略車である、このマシンのドライバーの一人であるモリゾウ選手の本名は豊田章男。GRヤリス開発の決断をした当人であり、このクルマのマスターテストドライバーであり、トヨタ自動車の代表取締役社長でもある。そして、現在は日本自動車工業会の会長も務める。
自動車会社の社長がなぜ、ドライバーとしてレースに参戦するのか。しかも、参戦するだけでなくクラス優勝まで果たすのは並大抵のことではない。
社長業を一切犠牲にすることなく、多忙な業務の合間を縫ってドライバーとして経験を積み、運転テクニックを磨き上げる。その真意を本人に聞いてみた。
「クルマを壊せ」の意味とは?
――富士24時間レースの前に、社長は朝礼で「クルマを壊せ」とおっしゃったそうですね。これはどういう意味が込められていたのでしょうか。
「コロナ禍で、しかも暑い時期なので、体は自己申告制で大事にしてほしい。ただ、“クルマは壊せ”と確かに言いました。とはいえ、同じ“壊す”にしても、GRヤリスはうちの新しい車なので、できる限り多くのデータは残そうと。それが改善、ひいてはもっといいクルマ作りにつながるという話はしましたが、まさか24時間、本当に最後まで壊れないとは思いませんでしたね」
――レース中、第1コーナーでスピンしたシーンがありました。社長のスピンを見るのは初めてだったのですが……。
「初めてですよ。というのも、私がスピンをするとニュースになってしまいますから、スピンを絶対にしないような走り方をしてきたんです。ただ、今回はそこに至る要因がありまして。FCY(フルコースイエロー=赤旗やセーフティカーを出すまでではない小規模なアクシデント)からセーフティカーになった時に、前のクルマがまだ50キロ制限を守っていたがために、後続のドライバーがイライラしてきたわけです。そこでセーフティカーが解除になった瞬間、前後左右クルマだらけの混乱状態になり、あれよあれよという間にスピンしてしまった」
――片岡(龍也)監督からは、何か指示があったのですか。
「『気をおとさないで。もう1回やり直しましょう』と、マイクロフォンを通して言われました。私としては、“別に気を落としているわけじゃないんだけどな、ちょっと滑っただけなのに”と思っていましたけどね(笑)。実際、何事もなかった顔をして安全にレースに復帰しました。今、その時のマイクロフォンの会話と映像を合わせて編集し、検証しているところです」