プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人が失敗した情報伝達のやり方。
広島戦3連敗と30年前西武に4連敗。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/08/28 11:50
「データが入れば入るほどに相手が大きくなってしまった」と振り返った槙原(左)。デストラーデ(右)らを擁する強力な西武打線に捕まった。
データが入るほど「相手が大きくなった」。
「スコアラーからデータが入れば入るほどに相手が大きくなってしまった」
後にこう語っていたのは第1戦の先発を任された槙原さんだった。
「もちろん秋山さんも清原もデストラーデも穴のないいいバッターであることは間違いないです。でも出てくるデータ、出てくるデータが得意ゾーンの説明で『ここに投げたら打たれる』『このコースは確実に長打される』っていうことが軸だったんですね。だからどんどん投げるところが狭まってしまった。そんな感じでした」
おそらくデータを示したスコアラー陣は危機管理のデータ提示のつもりだったのだろう。だから危険なコースや高さ、球種を丹念に説明した訳だ。
しかし相手だけを主語にしたその説明は、まさに後ろ向きの情報伝達となってしまったのである。
どう伝達するかで相手に伝わる価値は全く異なる。
150kmを超えるストレートに切れ味鋭いスライダー、落差のあるフォークボールとポテンシャルの高かった槙原さんの現役時代を思えば、むしろその真っ直ぐをどこに投げればいいのか、どのカウントでフォークを落とせば、という指示こそ前向きな情報伝達になったはずなのである。
「結局あの時は相手のことばかりを分析しすぎて、自分たち主体のデータ分析ができていなかった。それが相手を過剰に大きくしてしまったという面はあったかもしれない」
当時の投手陣の1人、巨人・水野雄仁巡回投手コーチもこう語っていた。
どんなに詳細にデータを集め、精査した分析をしても、その情報をどう伝達するかで相手に伝わる価値は全く異なるものとなってしまう。
まさにそこに失敗した苦い教訓だったのである。
前向きな情報の伝達にこだわった原監督とスコアラーの会話には、そんな30年前の教訓も含まれていたのかもしれない。