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内村航平、哲学を貫き鉄棒に専念。
オリジナル技「ウチムラ」の可能性。 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byYohei Osada/AFLO SPORT

posted2020/07/04 20:00

内村航平、哲学を貫き鉄棒に専念。オリジナル技「ウチムラ」の可能性。<Number Web> photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT

昨年4月の全日本選手権では両肩痛の影響から予選敗退した内村。得意の鉄棒に絞って心身の充実をはかり、東京五輪出場を目指す。

「周りの人も気持ちよくオリンピックに連れて行きたい」

 NHKのインタビューでは、「(東京五輪に)行くのなら、周りの人も気持ちよくオリンピックに連れて行きたい。そう考えると、6種目をやらなくてはいけないという自分のプライドは、いらないかな」と語っていた。
 
 このコメントで思い出すのが'12年ロンドン五輪の団体総合決勝だ。日本は2種目めの跳馬で山室光史が足を骨折。残り4種目をぎりぎりの4人で演技した日本は、団体総合銀メダルに甘んじた。
 
 それから中1日で行われた男子個人総合決勝。内村は離れ技のコールマンを抜く安全策を採り、演技の難度を示すDスコアを、予選の7.2から6.9に落とした。
 
 脳裏に浮かんでいたのは日体大時代からの盟友である山室の顔。骨折が判明していた山室は、男子個人総合決勝の翌日に日本に帰国することになっていた。

「個人の金より団体の金」と言い続けてきた。

 つねに「個人の金より団体の金」と言い続けてきた内村の根底にあるのは、「その方が喜びが何倍にもなる」という思いだ。仲間のため、周囲のため、プライドを捨ててでも鉄棒に絞ることにした今回の決断も、内村流の哲学としてとらえれば、何ら違和感はない。
 
 東京五輪は団体枠(4人)のほかに、各国・地域に最大2の個人枠が与えられる。日本が個人枠を獲得した場合に、内村は国内の選考会で出場権を争う。
 
 鉄棒にはI難度の「ミヤチ」を持つ宮地秀享もいる。出場権獲得の条件は複雑であり、その道は相変わらず険しいが、情熱を身にまとう内村なら次々と限界を突破していけるのではないか。

「引退を考えたことはあります」。内村は隠さずに言う。「東京五輪だから続けています」。情熱の炎に油を注ぐ日々が再び始まっている。

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