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無観客試合で異例のデビュー戦。
“時代”と生きるレスラー石川奈青。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2020/06/04 19:00

無観客試合で異例のデビュー戦。“時代”と生きるレスラー石川奈青。<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

観客「なし」と「あり」、2段階のデビューとなる石川奈青。この時期のデビューは業界にとってポジティブな出来事だ。

「人を思いきり殴ることなんて……」

 そもそも人を殴ったり蹴ったりすること自体が新鮮だった。

「殴る時は腰を入れるんだって初めて知りました。プロレスやってなかったら、人を思いきり殴ることなんて絶対なかったでしょうね」

 いわゆる“普通の女性”はそういうものなのかもしれない。だけどその試合ぶりを見ていると、どうやら石川はかなりの負けず嫌いだ。藤本が説明してくれた。

「レスラーになるような人間は、みんな負けん気が強いんです。違いは内に秘めるか秘めないか。石川は秘めないタイプですね。自分で決めたことはやり遂げる意思の強さもある」

誕生祝いはチャンピオンの蹴り。

 相手を殴る時だけでなく、抑え込む時ですら気合い満面。攻めてもやられても大声を出す。ファイトスタイルは確立されていないし技の数も少ないから「せめて声では負けないぞって」。

 表情も含めて感情を出すことは意識しているが、映像を見ると「私はこんな顔するんだ、こんな感情があるんだ」と自分でも驚くそうだ。飛び抜けた感情表現で知られる鈴季は、石川について「私と同じ“顔芸レスラー”ですね」と笑う。

 藤本は技術はもちろん、感情面での“成長”にも期待している。

「プロレスが面白いのは、見ている人と感情を共有できるところ。プロレスによって引き出される感情や、プロレスで培われる感情もあります。石川もこれから、もっといろんな感情が出てくるはず」

 誕生日である5月27日には、シングル王者の雪妃真矢と対戦した。「デビューおめでとう!」と背中を蹴られ、さらに「お誕生日おめでとう!」と前からも一撃。トップ選手の実力を体感して「嬉しいです」と石川は泣いた。

「誕生祝いにチャンピオンの蹴りをもらうって……プロレスラー以外じゃありえないですもん。こんな最高の誕生日ないですよ」

【次ページ】 記録にも記憶にも残るデビューだった。

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