濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
無観客試合で異例のデビュー戦。
“時代”と生きるレスラー石川奈青。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2020/06/04 19:00
観客「なし」と「あり」、2段階のデビューとなる石川奈青。この時期のデビューは業界にとってポジティブな出来事だ。
アイドルファンからプロレスの道へ。
幼い頃からモーニング娘。やミニモニ。が好きで、石川県から上京してからはハロー!プロジェクトの研修生発表会を見に行くレベルの“ヲタ”になった。3年前、プロレスとアイドルの二刀流グループ「アップアップガールズ(プロレス)」のオーディションを受けたこともある。
記念受験、思い出作りのようなもので「審査員席に本物のアイドルがいて喜んでました」と石川。ただその頃から、プロレスをやることには興味があったようだ。
「アイドルになれるとは思ってなかったんです。なれないからこその憧れで。でもプロレスへの憧れは違って。“可愛い”以外の魅力になる部分がたくさんあるなって。試合でブッサイクな顔になっても、その必死なところを喜んでくれるファンの方がいるので」
アイスリボンの一般向けプロレスサークル(プロサー)に入ったのはオーディションの翌年。運動不足解消のためだったが、どうせ体を動かすならプロレスで、と考えた。1年前に同じオーディションを受けて合格した「アプガ(プロレス)」メンバーたちの活躍を見て「私はただ仕事してるだけでいいのかな」という思いも出てきたという。
「1年分くらいの感情が1試合に詰まってる」
練習を重ね、プロサー生のエキシビションにも出場すると、プロになりたいという気持ちが強くなった。
紆余曲折あってのデビュー戦は、次期シングル王座挑戦者の鈴季すずと組み、藤本&つくしのタッグ王者コンビと対戦するという豪華なもの。リングアナにコールされると、先輩たちがサプライズで紙テープを投げてくれた。コスチュームを着てリングネームで呼ばれ、紙テープを浴びる。無観客だがエキシビションとはまったく違うプロの証だ。胸がいっぱいになって、あとは無我夢中のうちにギブアップしていた。
ここまで約1カ月試合をして、もちろん勝利はまだない。だけどプロレスをすること自体が楽しくて仕方がないと石川は言う。
「これまでの人生で言ったら1年分くらいの感情が1試合に詰まってる感じなんです。嬉しいし悔しいし痛いし怖いし、でもそれが楽しいし……こんな経験は今までしたことがなくて」