太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
五輪延期、インターハイ中止……。
太田雄貴から全アスリートへの言葉。
posted2020/05/02 08:30
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph by
FJE/Japanese Fencing Federation
新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大、そして、2020東京オリンピックの延期。予想外の事態によって、私たちはいま、思いもよらなかった生活を余儀なくされています。
4月上旬、私は周囲との連絡を最小限にとどめ、ほぼすべての時間を自宅で、家族とともに過ごしていました。ソーシャル・ディスタンスを保ちながらの日々の中で、自分自身と向き合う時間を持ち、さまざま考えをめぐらせていました。
いま、僕たちには何ができるのだろうか――。
明確な答えは、まだ見えてきていません。
東日本大震災の時と異なるのは、選手活動そのものが、周りの人に、そして自分自身を感染させてしまう可能性をもたらすこと。アクションを起こすことにリスクが伴う。
翼が奪われた、という表現が良いでしょうか。
それでも現段階で言葉にできること、そして私たちが徐々に取り組み始めていることを、この場でお伝えできればと思います。
国際試合で恐れていた事態が……。
まずは少し――その多くは他の競技の状況と相通じるところがあるはずですが――ここ数カ月のフェンシング界の動きを振り返ることにします。
2020年2月。
まだこの段階では、国際フェンシング連盟(FIE)の理事会でも、中国や一部での感染拡大への懸念は共有していたものの、事態はいずれ終息するだろう、と楽観視している人も多くいたように感じます。
しかしご承知の通り、日を追うごとに事態は深刻の度を増していきます。
私がFIEの選手委員となり、その後理事を務めるようになったここ7年ほどを振り返っても、ありえないほどのスピードで意思決定がされていきます。
オリンピックの選考対象の国際試合、そして世界ジュニア選手権大会の中止発表が続々と決まっていきました。
そして、トップの国際試合で、恐れていた事態が起きます。
3月9日、男子エペGPブダペスト大会で山田優選手が優勝を果たしたのは嬉しいニュースでしたが、大会に参加した中国と韓国の選手がその後、新型コロナウイルスに感染していたことがわかったのです。
そして3月12日、FIEは「今後30日間に開催される国際大会は全て延期する」と発表します。
振り返れば、とても難しい判断だったことと思います。その時点ではまだ、東京五輪の延期は決まっていませんでしたし、五輪出場枠のほとんどが、あと数大会が終わった時点で決まる、というタイミングでもありました。
それでも、大会延期という苦渋の決断をせざるをえませんでした。