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五輪延期、インターハイ中止……。
太田雄貴から全アスリートへの言葉。 

text by

太田雄貴

太田雄貴Yuki Ota

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photograph byFJE/Japanese Fencing Federation

posted2020/05/02 08:30

五輪延期、インターハイ中止……。太田雄貴から全アスリートへの言葉。<Number Web> photograph by FJE/Japanese Fencing Federation

日本代表選手が日頃やっているトレーニングを無料配信(YouTube日本協会公式アカウントから)。

悩んでいるアスリートも多いはず……。

 多かれ少なかれどんな方もそうだと思うのですが、特に試合がなく満足に練習を行えない状況にあるアスリートはいま、「自分がやってきたことの意味は、いったい何だったのだろうか」と自らに問うている時間が多いと思います。

 そしてその自問自答の中で、これから必要とされるアスリートの未来像も、より明確になってきているはずです。

 競技成績だけでなく、自らがこれまで積み重ねてきたことをきちんと要素として分解し、分析し、培った能力や視点を、社会のニーズに合わせて世の中へ還元していける人。

 そんな人をこそ、すべてのアスリートが目指すべきではないか、と思います。

 もちろん、そのような存在になることは決して簡単ではありませんし、思い立ったからといって一朝一夕にたどり着ける像でもありません。

 たとえば日本フェンシング協会はこれまでも、選手に競技力向上はもちろんのこと、選手自身にプロデュース力、マーケティング力を身につけてもらおうと、各選手のユニフォームに、自分自身のスポンサーのロゴをつけることができる枠を設けてきました。その枠を引き受けてもらう方を探すべく、それぞれに『営業活動』を促す仕組みです。

 ほかにも、選手自らが主体的に情報を発信し、活動していくことを奨励するなかで、日本代表選手で構成されたアスリート委員会(選手会)が主体となった「フェンシングファン感謝祭」といったイベントも数多く開催されてきました。

 こうした選手ひとりひとりの姿勢は、何もアクションを起こさなかった頃よりは遥かに社会性を帯びています。しかし、これからはもっと、その内実が問われてきます。

 コロナ禍によって、たとえばスポンサーの方と改めて交渉をしなければならない局面もでてくるでしょう。誰かに頼ることなく、自分自身でSNSなどを活用し、活発に情報を、自分の考えを発信していくことも求められていきます。

 自らのありようを俯瞰して眺めた上で、あらためて社会のニーズを汲み取り、自身と突き合わせる中で、自分をきちんと世にPRする手段を見つけることができるのかどうか――今こそ、社会は自分に何を期待しているのかを、じっくり内省するチャンスなのだ、と発想を転換することが必要だと思います。

動画「ガチトレ!」をYouTubeで一般配信。

 頼もしいことに、選手たちは、早速いろいろ動き始めています。

 たとえば4月23日、選手たちは日頃行っているコアトレーニングの動画「ガチトレ!」をYouTubeで一般配信しました。結果、のべ1000人を超えるファンのみなさんに、パソコンやスマートフォンの画面を通じて選手と一緒にトレーニングをする疑似体験を提供しました。

 この取組みは、これまでクローズドだったもの=特にお見せするものではないと思っていたものをオープンにしてみた、ということです。でも、こうやってトライした結果、ファンの方々とのタッチポイントを増やすことができました。

 また、メジャーマイナー問わずスポーツの試合がなく、日々のスポーツニュースで報じるトピックスが不足しがちなメディアの皆さんにも、新しいニュース材料を提供し、結果としてフェンシングをPRすることにもつながっています。

 地道なことですが、こういったことを工夫して行っていくことはそのまま、日本フェンシング協会の「突け、心を。」というスローガンの実践につながっていくことでしょう。

【次ページ】 アスリートとして生きることの意味。

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