太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
五輪延期、インターハイ中止……。
太田雄貴から全アスリートへの言葉。
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph byFJE/Japanese Fencing Federation
posted2020/05/02 08:30
日本代表選手が日頃やっているトレーニングを無料配信(YouTube日本協会公式アカウントから)。
選手たちにとっては、つらい自宅待機。
私たち日本フェンシング協会も、対応に追われました。
まず、海外遠征から帰国してくるナショナル・チームの選手たちに、「帰国後2週間の自宅待機」をお願いしなければなりませんでした。
3月中旬の時点で、日本国内はまだ、今のような外出自粛に至っていませんでした。人々の自粛意識がゆるんだ、とされる3月20日からの3連休よりも前のタイミングです。そうした局面の中で、海外から帰ってきたのだからと「家にいてください、練習場は使用できません」と選手にお願いすることは、大変難しい話でした。
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政府からの要請でもなく、また雇用関係による命令でもなく、協会と選手という関係性の中でお願いするしかありません。選手たちにとっては、つらい自宅待機だったと思います。しかし、その2週間の待機期間を過ぎたころ、新型コロナの国内感染状況はより深刻な状況を迎えていました。練習は再開されることなく、東京五輪の延期が決まりました。
とにもかくにも新たなる一歩を踏み出した瞬間。
かねてより私たち日本フェンシング協会は、アスリート・ファーストはもちろんのこと、彼らの将来についても思いをめぐらせ、サポートをしていく「アスリート・フューチャー・ファースト」を掲げてきました。
選手たちが目標を失いかねない状況が訪れてしまったいま、協会として、彼らの未来のために何かできないだろうか……。
そう考えた私は3月下旬、知人たちにメッセージを送りました。
「読まなくなった本を、選手たちに寄贈してくれないか」――。
選手たちは練習もできず、さらに人にも会うことができない。そんな中で、図らずも生まれてしまった1人の時間を活用してできることの1つに、読書があります。本を通じて、自分自身の将来に向けて視野を広げることができるはずだ、と考えての声がけでした。
ありがたいことに、皆さんからビジネス書を中心に1500冊を超える本がナショナルトレーニングセンターに集まり、選手たちに無料で貸し出すことができました。
残念ながらその後、センターの使用が停止されてしまったので貸出しができなくなってしまいましたが、新型コロナウイルスの影響を受ける中、私たちがとにもかくにも新たなる一歩を踏み出した瞬間でした。
そもそもこのプランは、新型コロナウイルスの流行以前に、福田佑輔強化本部長とも話し、考えていたものでした。「本に囲まれながら、選手たちがコミュニケーションをとれる環境をつくりたいね」と。
いわゆる『三密』にひっかかるため、今は選手たちがそういった環境で集うことはできないのですが、考えを深めるには適した時間をそれぞれに過ごすことができています。