Jをめぐる冒険BACK NUMBER
Jクラブは開幕前、何を鍛えている?
レノファ山口のキャンプ潜入・前編。
posted2020/02/13 20:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Norio Rokukawa
25人も入れば一杯になるミーティングルームのスクリーンに映し出されているのは、ヨーロッパの試合映像である。
だがそれは、チャンピオンズリーグの一戦でも、欧州1部リーグの試合でもない。
FAカップのアーセナル対リーズ――。
しかも、フォーカスされていたのはロンドンの名門クラブではなく、イングランド2部リーグに属する後者だった。
リーズの選手たちがものすごい迫力で相手選手に襲いかかり、容易にパスを繋がせない。苦しまぎれに蹴られたボールを回収し、瞬く間に相手ゴールへと押し寄せる。
相手のカウンターになりそうな場面でも5~6人が全速力で帰陣し、アーセナルの速攻を阻止してしまった。
薄暗い室内で、霜田正浩監督が選手たちに熱っぽく語りかける。
「リーズはイングランドの2部だ。代表選手はひとりもいない。特別な選手もいない。それでも魂のこもったサッカーでプレミアに上がろうとしている。この迫力、このインテンシティ、この人数。この“リーズスピリッツ”を今年はうちが見せるんだ」
1月23日の夜にタイ入りし、バンコクから車で1時間半のパッタナ・ゴルフクラブ&リゾートで2月9日まで行なわれたレノファ山口のプレシーズンキャンプ。そのトレーニング初日の夜に霜田監督が選手たちに見せたのが、リーズの映像だった。
マインドセットのミーティングも。
2日目の夜には、「マインドセット」をテーマにしたミーティングが行なわれた。
マインドセットとは、考え方の基本的な枠組みのこと。つまり、チームとしてどのような考え方を共有するか、という話だ。
お手製のパワーポイントによって説明されたのは「Aマインド」「Bマインド」「Cマインド」という3つのマインドについて。
Aマインドとは、自分がこうしたい、こうなりたいという個人の願望。野心や向上心もこれにあたり、プロサッカー選手として絶対に持っていなければならないものだ。
その上に位置するBマインドは、自身の所属する組織のために何かしたいという想い。犠牲心やロイヤリティ、貢献したいという気持ちがここに含まれる。
Cマインドは、国のために、人類のために、世界平和のために、といった、Bマインドよりもさらに広い視野が求められる。霜田監督が選手に問いかける。
「点を取りたい、J1に個人昇格したい、日本代表になりたいという気持ちは大事。特にストライカーはエゴを出していい。でも、自分のことしか考えてない選手が集まったチームは強くならない。
すべてのアクションを全部、チームの勝利のためにフォーカスする。そういうチームは本当に強い。Cマインドとは言わない。チームのために戦えるBマインドを持った集団――これを今年の一番のストロングポイントにしよう」