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井上尚弥は「1秒の間に何コマも」。
どうすれば「ゾーン」に入れるか? 

text by

長田昭二

長田昭二Shoji Osada

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2019/12/15 20:00

井上尚弥は「1秒の間に何コマも」。どうすれば「ゾーン」に入れるか?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

昨年10月のWBSS1回戦、試合開始からわずか70秒のことだった。井上尚弥はこの右ストレート1発でパヤノをマットに沈めた。

Low β波が出ている状態に。

 アスリートの場合、ゾーンに入れる脳波が「最適な状態」ということになる。

「脳波はその周波数によって、δ(デルタ)波、θ(シータ)波、α(アルファ)波、β(ベータ)波、γ(ガンマ)波に分けられます。

 いわゆるゾーンと呼ばれる状態に出ている脳波は、落ち着いてリラックスしているときに出るα波と活発な思考や緊張をしているときに出るβ波のちょうど中間ぐらいの『Low(ロウ) β波』になります。

 小林選手も試合でスタート台に座ったときに、このLow β波が出ている状態になるようにトレーニングをしました」

19の電極があるヘッドギアを装着。

 具体的なトレーニング方法を林氏はこう説明する。

「19の電極があるヘッドギアを装着して、目を開けた状態、閉じた状態、競技をしているところ、の3つの自分をイメージして、各5分ずつ脳波を測ります。イメージするだけで、脳は実際の競技中と同じ部位が動くので、集中力の有無や持続性、視覚野の動きなどが見て取れるのです。

 その脳波のデータをアメリカの研究施設に送ると、そこに蓄積されたビッグデータを元に、その人がゾーンを迎える時の脳波の予測値が弾き出されます。そして、その予測値の周波数を設定して、ヘッドギアをつけて脳波を測りながらカウンセリングを行うのです。

 カウンセリングをする中で、脳波が目標の周波数に達すると、音が鳴って知らせてくれます。これを繰り返すことで、『この状態になれば音が鳴る(ゾーンに入る)』ということを脳に覚えさせます。

 心臓と同じように、脳も自律神経によって勝手に動く臓器なので、本人が『こうしよう』と努力したところでどうなるものでもありません。脳自身が学習して、自発的にゾーンに向かうように仕向けてあげるのが、このトレーニングの目的です」

【次ページ】 競技に対する価値観を探る。

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