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井上尚弥は「1秒の間に何コマも」。
どうすれば「ゾーン」に入れるか? 

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長田昭二

長田昭二Shoji Osada

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2019/12/15 20:00

井上尚弥は「1秒の間に何コマも」。どうすれば「ゾーン」に入れるか?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

昨年10月のWBSS1回戦、試合開始からわずか70秒のことだった。井上尚弥はこの右ストレート1発でパヤノをマットに沈めた。

競技に対する価値観を探る。

 この方法について、前出の菅原医師はこう指摘する。

「メンタルトレーニングの基本は、条件付けです。ゾーンに入ると音が鳴る、というのは“パブロフの犬”と同じアプローチで、医学的にも合理的な考え方といえます」

 施術者がカウンセリングの中で探っていくのは、その選手が競技に対して持っている価値観だという。

「家族のため、お金のため、有名になるため――など、価値観は人それぞれ違うし、どんな価値観でも構いません。

 重要なのは、その価値観を強固なものにして、そこに向けてブレない集中力を養っていくこと。その点では、物事に懐疑的な人は難しい。『こうだ!』と思ったらそこに入り込めるタイプの人だと、トレーニングの効果も出やすいですね」(林氏)

レアル・マドリーも導入。

 欧米では10年ほど前から脳波トレーニングがスポーツ選手の強化に組み込まれるようになっているという。

 林氏によると、欧米の論文ではアーチェリーやゴルフのような、瞬間的な集中力が求められる個人競技において効果が出やすいという報告がある。ジャンプもまさにそうだ。一方で、レアル・マドリーやACミランなど、脳波トレーニングを導入するサッカークラブも出てきているという。

 菅原医師はゾーンへの入り方についてこう総括する。

「ゾーンに入るには、まずリラックスした状態(α波が出る状態)があって、そこにスパイスとしての緊張やストレス(β波が出る状態)が必要です。ただ、緊張やストレスが過度なものだと逆効果になる。

 たとえば高校野球でも、甲子園常連校と初出場の高校とではどうしても緊張の大きさが異なるので、そこに本来の実力とは別の作用が生まれてしまう。

 脳波トレーニングは、その人にとっての適度な緊張やストレスがどのようなものか、ということを脳波から探って脳に教えてあげている、とも言えます。その意味でも理にかなっているトレーニングだと思います」

【次ページ】 “ルーティーン”の効果とは?

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