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井上尚弥は「1秒の間に何コマも」。
どうすれば「ゾーン」に入れるか?
text by
長田昭二Shoji Osada
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2019/12/15 20:00
昨年10月のWBSS1回戦、試合開始からわずか70秒のことだった。井上尚弥はこの右ストレート1発でパヤノをマットに沈めた。
「意図的にゾーンに入ること」で活躍したアスリート。
実は近年、「意図的にゾーンに入ること」で活躍したアスリートがいる。スキージャンプの小林陵侑(土屋ホーム)だ。
昨シーズン、小林は日本人男子として史上初のW杯総合王者に輝いた。男子では欧州勢以外の総合優勝も史上初という快挙だった。
小林が頭角を現したのは突然のことだった。W杯にデビューした2015-'16年のシーズンは総合42位、2016-'17シーズンは「ポイント無し」、2017-'18シーズンは24位だったが、2018-'19年シーズンに大躍進を遂げたのだ。
脳波トレーニングの成果。
その要因として小林は、昨年5月から取り組んできた「脳波トレーニングの成果」を挙げている。これはどのようなトレーニングなのか。実際に小林に脳波トレーニングを行っている、ニューロセラピストで日本脳波トレーニング協会理事長の林愛理氏に聞いた。
「脳波トレーニングは、もともと発達障害やうつ病の治療をサポートする手段として開発されたものです。近年、欧米を中心にアスリートのトレーニングに応用されるようになりました。ベースには精神科領域で行われる“認知行動療法”があり、これに“ニューロフィードバック”という心理療法を組み合わせたトレーニングです」
認知行動療法とは、「うまく行かない」と悩んでいる人の話を聞く中で、うまく行かない原因を探り出し、その事象に対する考え方と行動を少しずつ変えていくことで、「うまく行く」ようにサポートしていくカウンセリングを主体とした治療法だ。
一方のニューロフィードバックとは、その人にとって最適な脳波を見つけ、その脳波になった時に何らかの刺激を与えることで「最適な状態」を脳に記憶させ、最終的には脳が自発的に「最適な状態」を目指すように仕向ける技術のこと。