Overseas ReportBACK NUMBER
陸上界が揺れたドーピング禍の顛末。
オレゴンプロジェクトの解散と今後。
posted2019/11/01 11:40
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
AFLO
ドーハ世界陸上、大会4日目。陸上界に衝撃のニュースが走った。
ナイキ・オレゴンプロジェクトのヘッドコーチ、アルベルト・サラザール氏と同チームのコンサルタントをしていたジェフリー・ブラウン医師が、ドーピング問題で4年間の資格停止処分に。
同チームには、マラソン日本記録保持者の大迫傑選手も所属し、『世界最高の中長距離チーム』『メダルを狙う精鋭の集まり』として知られていた。
世界の長距離を牽引してきた同チームの薬物問題の衝撃は大きく、メジャーリーガーが多数関わったBALCO、自転車のランス・アームストロングのドーピング問題と同じレベルといっても過言ではないだろう。
アメリカ反ドーピング機関は、サラザールとブラウン両氏に下記の理由で処分を下している。
(1)禁止された方法での薬物管理
(2)ナイキオレゴンプロジェクトの選手たちの薬物検査の改ざん
(3)テストステロンの不正取引や使用
ロンドン五輪前後からサラザール氏が選手たちにマイクロドーズ(薬物検査に引っかからない微量の薬物を投与する方法)しているという噂は定期的に流れていたが、アメリカ反ドーピング機関の粘り強い捜査が実を結んだ。
選手の反応はさまざまだった。
サラザール氏の資格処分を受け、国際陸連はドーハ世界陸上での同氏のコーチパスを剥奪。指導を受けていた選手たちは「コーチ不在」で大舞台に臨むことになった。
オレゴンプロジェクトの選手たちがレース後に質問攻めにあったのは容易に想像できるだろう。
「2011年から疑惑があったのに、なぜチームに加入したのか」
「そもそもコーチのドーピング疑惑の噂は知っていたのか」
「チームから離れる予定は」
「自分はクリーンだと証明できるのか」
選手の反応はそれぞれだった。サラザール氏から指導を受けていた選手たちの表情は険しく、知らぬ存ぜぬを通す一方、アシスタントコーチのピート・ジュリアンの指導を受けていた選手たちは「オレゴンプロジェクトのメンバーだけど、自分のコーチはアシスタントコーチのピートだから、自分には関係ない」と明るい表情でかわした。
記者の中には「自分のコーチはピート・ジュリアンです、ってプリントしたTシャツ着てくればいいのにね」と毒づく人もいたほどだった。