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“1ミリ”も見逃さないVAR導入で、
プレミアリーグは何を失うのか? 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2019/08/27 11:00

“1ミリ”も見逃さないVAR導入で、プレミアリーグは何を失うのか?<Number Web> photograph by Uniphoto Press

VAR判定によって判定の精度が向上するのは間違いない。その一方でサッカーの醍醐味を欠くようになるとの意見も多い。

マンCは2戦連続ゴール取り消し。

 同日、トッテナムは敵地でマンチェスター・シティから勝ち点1ポイントを奪うことに成功した(2-2)。後半アディショナルタイムにCKの流れからFWガブリエル・ジェズスが決めたシティの3点目を、クロスを競ったアイメリク・ラポルテのハンドで無効とする判定が下った。

 その途端、トッテナムファンがゴスペルソングのメロディーに乗せて「VAR、我が主よ」と歌うなど、それこそ「救世主」が登場したようなものだ。

 一方、シティ陣営としてみれば、文句なしと思われたゴールを2週連続で取り消され、「天敵」の出現と言ったところに違いない。

 ウェストハムとの開幕戦、結果(5-0)にこそ影響はなかったものの、ジェズスが決めた幻の3点目をお膳立てしたラヒーム・スターリングは、報道では最短で「1ミリ」、最長でも「数センチ」という、数字上だけとも言えるオフサイドのビデオ判定を受けた。

 翌節でラポルテに下った判定も正当だが、非情。CKが放り込まれた混戦のゴール前で、不可抗力としか言いようのないハンドだった。

 特にトッテナム戦では、劇的な勝ち越しゴールの興奮と喜びを打ち消された。マンC陣営のやるせない思いには、中立的な立場でも同情を覚える。そこには、VARがテクノロジーで武装した「破壊王」となってしまうことに対する危惧もある。

「最終的に確認されるまで喜ばない」

 サッカーとは情熱を抜きにしては語れないスポーツである。とりわけチームとファンの情熱が最も激しく、美しく、そして眩しくほとばしる、ゴールが生まれた瞬間の喜びを、ビデオ判定によってなきものにされかねないのだ。

 実際、第2節終了後には「これからは、最終的に確認されるまでゴールは喜ばない」とSNSなどで嘆くシティのファンが多かった。

 もちろんVAR導入前から、ゴールに「イェーッ!」と大声をあげた観衆が、オフサイドを告げる副審の旗に気付いて口をつぐむシーンは見られた。

 しかし、VARのビデオ副審は目の前の会場にはいない。マンCのホームから300キロ以上も離れた、ロンドン西部にあるスタジオにいるのだ。イヤーピースを通じて主審とやり取りしている最中、スタジアムのスクリーンには「ゴール確認中」といったメッセージが出るが、具体的に何を確認しているのかがわからない。

【次ページ】 スタジアムの空気が「???」。

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