プレミアリーグの時間BACK NUMBER
“1ミリ”も見逃さないVAR導入で、
プレミアリーグは何を失うのか?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/08/27 11:00
VAR判定によって判定の精度が向上するのは間違いない。その一方でサッカーの醍醐味を欠くようになるとの意見も多い。
スタジアムの空気が「???」。
ゴールが決まったと思っている側にすれば、そもそも、なぜ確認が必要なのかがわからない。確認に要する時間は、トッテナム戦でのゴール取り消しの場合で1分半ほどだった。
人間なら誰しも、何がどうなっているかわからない状況での1分半は長い。相手チーム側のアピールがあったわけでもない場合には、スタジアム全体が「???」という空気の中で時間がゆっくりと経過する。
こうした空白の時間はサッカー観戦中にあるまじきものである。判定の公正性の一方、スタンドの観衆が不公平な扱いを受けているようにも思える。テレビ観戦者は、すぐにリプレーでビデオ判定の理由を確かめることができる。だが、スタジアム観戦者は「ノー・ゴール」のように判定結果がスクリーンに表示されても、「どうして?」という疑問が消えない。
今ではフリーWifiを飛ばしている会場もあるが、数万人の一斉使用に耐えられないケースがほとんど。観客の多くが、帰途に着くまでモヤモヤした心境でいることになる。そしてスマホを持たない年配サポーターなどは、帰宅して録画やハイライト番組を見るまで理由がわからないままだ。
リプレー映像が写せない本拠地も。
スタジアムでも、ビデオ判定に用いられた映像をスクリーンに流せば、少し状況が改善されるかもしれない。現状、プレミアリーグでは物議を醸す類のリプレーを流さない決まりだが、VARによる確認対象は例外とすべきではないだろうか。
そうした措置がなされていない理由には、マンチェスター・ユナイテッドやリバプールのホームのように、映像を写せる設備がないという事実もある。プレミアを代表する伝統の両ビッグクラブには、物理的なスクリーン設置への早期対応を願いたい。
それ以上に求めたいのが、ビデオ判定の際の人間的な対応だ。トッテナム戦でのシティの勝ち越し点の取り消しは、故意かどうかにかかわらず、ハンドが絡んだ場合に得点を認めない現行のルール自体に問題があることは間違いない。
機械的にすべての得点をVAR対象とするのではなく、審判団が「明らかな判定ミスを減らす」という本来の使用目的を意識していれば、何の問題もない。ゴール取り消しに驚きの表情を浮かべた選手の中に、トッテナムGKのウーゴ・ロリスも含まれていたように、ジェズスの得点を認めた主審の判断は、人的エラーではなかった。