ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
磐田が誇る「N-BOX」を攻略した、
鹿島の逆プレスと伝統の勝負勘。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/08 10:30
(左から)鈴木秀人、中田浩二、中山雅史、福西崇史、秋田豊……両クラブの豪華陣容ぶりが伝わる1枚。
中山が孤立した中での持久戦。
磐田の暗転は数字からもわかる。第1戦でチーム全体の総パス数のうち3割を占めていたドイスボランチのパス数が大幅にダウン。パスの成功率も第1戦と比べて、13%も下がった。鹿島の狙いにまんまとハメられた格好だろうか。
主砲の中山も前線で孤立。磐田の強みでもあった補給艦が沈みかけた状態では、肝心の砲弾が届かない。鹿島に渾身の一撃を見舞う機会そのものが失われていた。どんなに優れていても、兵站のバックアップを得られない砲撃手は無力だ。
しかも、時計の針が進むにつれて、試合の流れがさらに鹿島へと傾いていく。スコアは0-0のままだが、鹿島の選手たちは時間が強力な味方になることを知っていた。
「相手の動きが必ず落ちてくる。そう思っていた。実際、第1戦でもそうだった」
ボランチの一角を担って奮闘した熊谷浩二がそう振り返る。持久戦に勝機あり。サンドバッグになりかけたところから粘りに粘って追いついた第1戦で磐田の弱点をしたたかに見抜いていたわけだ。
切り札本山、そして小笠原のFK。
あとは、どう仕留めるか。
負傷を抱える司令塔のビスマルクを予定よりも早くベンチに下げ、切り札の本山雅志をピッチへ送ったことが結果的に鹿島の追い風となる。神出鬼没の本山が動きの鈍った磐田の選手たちに容赦なく足を使わせ、疲労困憊へと追い込むことになったからだ。
それにしても、この日の本山は凄かった。ひとたびボールを持つと、紙でも破るように磐田の守備陣をやすやすと切り裂いていく。そして延長前半、100分には敵のファウルを誘う単騎突入でトドメの機会をお膳立て。ゴールから約20メートル地点のFKだ。
キッカーは自ら名乗り出た小笠原満男である。どこを狙うか。すでに第1戦のときから的を絞り込んでいた。右足で鋭くこすり上げたボールがゴール右に吸い込まれていく。自ら「読み勝ち」と語る一撃だった。