ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
負の歴史でもカメラを止めるな。
DeNAドキュメンタリー公開の覚悟。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byYDB
posted2018/12/13 08:00
主将の筒香嘉智も「空気は重かったと思います」。この作品を通じてDeNAが伝えたかったこととは――。
大和の頭部死球の瞬間は……。
たしかに倉本はいい意味で飄然としたところのある選手だ。訊かれたら嫌なことであっても、最終的には自らの言葉でしっかりと吟味し、答えてくれる。つらいシーズンではあったが常に気丈に振舞う今季の倉本はとても印象的だった。
「けどシーズン中、一度だけ自分はこの仕事が嫌だ、向いていないと思ったことがあったんです」
そう辻本監督が言ったのは6月12日のロッテ戦、試合前の練習で大和の頭部付近に打球が直撃し、救急車で搬送されたときのことだ。辻本監督はアクシデント後、カメラを手に大和を追った。
「そのとき選手生命が終わるかもしれない選手を目の前にして撮影している自分に愕然としたんです……」
ショックだった。仕事とはいえ過酷な現実を前に、これ当然とファインダーを覗いている。幸い大和は軽傷で済んだが……。
ただ一方で、辻本監督はこの一件で塗炭の苦しみを味わいながらも、懸命に戦う選手たちを目の当たりにし、徐々に考えを改めていったという。
「僕の撮った映像を元にした編集やアウトプットの仕方ひとつで、大和選手や他の選手への力になると思ったんです。僕は相手にとって嫌なものを撮っているのかもしれないけど、これを選手のために活かせるようにしようって」
筒香が発揮するリーダーシップ。
選手同様、辻本監督もクリエーターとして、試されることが非常に多い現場だった。だからこそ作品は濃密にかつ重厚に仕上がっている。
とはいえ垂れ込めるような暗いシーンばかりではない。東克樹や三嶋一輝、ソト、宮崎敏郎の活躍もあった。キャプテン筒香嘉智のリーダーシップと言葉は、心を震わすほど圧倒的だった。
そしてCS進出が消滅した10月9日のヤクルト戦、試合後にラミレス監督が語った「責任はコーチの意見を聞けなかった自分にある」といった言葉の真相――何が起こっていたのかは本編で確認してもらいたいのだが、つらく苦しいシーズンにあっても、そこには“救い”があった。このチームはまだ大丈夫だという“希望”がたしかにあった。