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負の歴史でもカメラを止めるな。
DeNAドキュメンタリー公開の覚悟。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byYDB

posted2018/12/13 08:00

負の歴史でもカメラを止めるな。DeNAドキュメンタリー公開の覚悟。<Number Web> photograph by YDB

主将の筒香嘉智も「空気は重かったと思います」。この作品を通じてDeNAが伝えたかったこととは――。

明るい話題は短く、苦難は長く。

 普段からカメラはまわしているが“撮っているから制作する”といった安易な方法論はそこにはない。あえて出さないプライドも球団にはあるという。

「最終的に制作を決断したのは、ここ2年Aクラスがつづいたにも関わらず、一転して苦しいシーズンになったことが大きいですね。こういうときこそ伝えることがあるのではないかという結論に至り、8月には劇場公開も含めた制作に踏み切りました。

 クライマックスシリーズに行ける可能性はありましたが、仮に3位だったとしても負けと向き合い、目標に届かなかったチーム、負けを描く作品と決めていました」

 先発陣の出遅れから始まり、調子が上がらない選手たち、噛み合わない投打、度重なる怪我人、予想もしなかったトレード……チーム全体が軋み、音を立てて瓦解しそうになる。

 このシリーズで初めて陣頭指揮を執った辻本和夫監督の手により、作品は時系列にのっとり事実を克明に映し出していく。光量がアンダー気味の暗い映像、シンプルで飾り気のない挿入曲が印象的であり、テンポよく選手たちの苦悩と鼓動が伝わってくる。

 辻本監督もクリエーターとして苦悩しつつ選手と作品と向き合った。

「明るい話題は短く、反対に苦しい部分を長く描いています」

ロペスらが激昂するシーンも。

 ファンにとっては“見たくない”とおぼしきシーンが頻出する。球団の公式YouTubeに本編のトレーラーが公開されているが、そこには救援に失敗した山崎康晃をフォーカスするカメラに激高するロペスや、不本意な判定にベンチ裏で憤りを露わにするパットン、調子が上がらず責任を感じひとり落ち込む桑原将志の姿があった。

 またシーズン序盤、ファーム落ちを言い渡された倉本寿彦が、ロッカーでフォーカスされていることに気がつくと、カメラに向かって「撮らんでいいですよ」と厳しく言い放った姿もインパクトが大きかった。

 傷ついている者を赤裸々に映し出す残酷さ。そこには当然、良心の呵責がある。

 辻本監督はあのシーンを振り返る。

「その後、倉本選手と食事に行く機会があり、いろいろとお話をしたんです。倉本選手は撮影されるのはあまり好きではないということだったのですが、こちらにも気を使ってくれて“これからも撮ってください”と言ってくれました。

 じつは倉本選手は“撮らんでいいですよ”ということが何度かあって、それは口ぐせみたいなものなんだとシーズンが進むにつれ理解していきました」

【次ページ】 大和の頭部死球の瞬間は……。

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