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「サッカーは非人間的、機械的に」
トルシエが語ったロシアW杯前と後。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/08/13 11:00
ロシアW杯でのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の画面。この制度の導入により、二度と“神の手”は出現しなくなるだろう。
「ビデオ判定でなければ絶対に笛は無かった」
――ビデオ判定が結果に影響を与えたと言えますか?
「影響はあった。
オーストラリア戦でフランスがPKを得られたかどうかは誰にもわからなかった。あのPKがなかったら引き分けに終わっていただろう。
クロアチア戦のPKもそうだ。ワールドカップの決勝で、ビデオ判定でなければ笛は絶対に吹かれなかった。つまりビデオがサッカーを多少なりともロジカルにしたと言える。
これまでサッカーは非ロジカルなスポーツだと言われ続けてきた。サッカーでは1+1がときに3になると。『誤審』がその主な原因だったが、そこがこの大会では合理的になった。試合結果も合理的になり、1+1は常に2になったわけだ」
サッカーは非人間的、機械的になった。
「だが他方でサッカーの人間的な側面を排除したのも事実だ。レフリーの判定を議論するのもサッカーの一部であるからだ。その点でサッカーはより非人間的かつ機械的になったといえる。
しかしあらゆる疑念を排除して、より明快になったのも間違いない。合理的な結果に到達することで、ロジカルな勝者をビデオが生み出した。
判定へのフラストレーションは常に存在したが今は違う。ビデオが示す結果に議論の余地はない。疑念や批判を挟む余地はなくなった。
だから今、批判されるのはデシャンの哲学であり、フランスのプレースタイルだ。それはサッカーそのものへの批判であり、監督に対する批判であり、選手交代やプレー哲学への批判だ。
判定がより正確になることで、結果に対する監督の責任がより重くなったといえる」