燕番記者の取材メモBACK NUMBER
ヤクルト小川淳司監督とは何者か。
コーチ陣と選手に伝播する「執念」。
posted2018/04/08 09:00
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph by
Kyodo News
ヤクルト小川淳司監督は、思わず耳を疑った。3月30日、DeNAとの開幕戦が行われる横浜スタジアムへと向かう前だった。自宅で来るべき戦(いくさ)に向けてリラックスしていると、キッチンから揚げ物を揚げる軽やかな音が聞こえてきた。
小川監督は遠征先にもドリップパックのコーヒーを持参し、マグカップの上に広げて香りまで楽しむほどコーヒーを好む。だからこそ、小川家の朝食といえばパンが定番だった。
4年ぶりに監督として迎えた初戦の朝ご飯は「和食」だった。食卓に並んだのは、からっと揚がったヒレカツに白かぶのみそ汁、白いご飯。いずれも「勝ち」「白星」を連想させる、勝負事にはうってつけの“勝負めし”と言える。
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「冷蔵庫に肉が余っていただけじゃないの。無理やりこじつけるなよ」と苦笑いしたが、夫人の優しさが伝わらないはずはなかった。朝からはちょっと重めのおかずをしっかりと胃に流し込んでから身支度を整え、横浜スタジアムへと愛車を走らせた。
何度も口にした「執念」という言葉。
今回の2度目の監督就任にあたり、小川監督は「執念」を自らの信念に据えた。
「1球に対しての執念、勝ちに対しての執念。最後まであきらめない姿勢。そういったことは常に、1年間持ち続けることが大事になる。ずっと言い続けていこうと思う」
第1次政権は監督代行時代を含めて約5シーズン。9年間の二軍監督生活で培った勝負勘と選手を見る眼力に加え、温和な笑顔と雰囲気でチームをまとめていくタイプの指揮官だった。
だからこそ、小川監督の口から何度も発せられる「執念」という言葉を耳にするたびに、最初は少し戸惑いを禁じ得なかった。思考のどこを出発点にした言葉なのか――。
答えは、神宮球場のスタンドにあった。