燕番記者の取材メモBACK NUMBER
ヤクルト小川淳司監督とは何者か。
コーチ陣と選手に伝播する「執念」。
text by
浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto
photograph byKyodo News
posted2018/04/08 09:00
'10年5月、高田繁の辞任により監督代行になると、翌'11年より監督就任。'14年に辞任後シニアディレクターを3年務め、今季より監督に復帰した。
山田哲人に盗塁をグリーンライト指示。
そして、3月30日。「変わるんだ」という思いを訴え続けてきた小川監督の“執念”が、実を結んだ。敗北にまみれた昨季の弱気な姿は、ヤクルトになかった。1回。DeNAの名手大和の失策で出塁した1番山田哲人が、次打者山崎晃大朗の初球に二盗を敢行。浮足立つ相手の隙をついてチームに勢いをつけ、一気に先制点へとつなげた。
「盗塁をすることに迷いはなかったです」という山田の次の塁を狙う“執念”をくみ取り、小川監督はグリーンライト(行けたらいけ)の指示を出していた。投手陣も強力DeNA打線に臆することなく、リードを守り続けた。7-3の完勝。「緊張感の中、よくチャンスをつくった。投手も頑張った」。必死に勝利をもぎとりにいった選手をたたえると、観戦に訪れていた夫人を助手席に乗せ、愛車のハンドルを握った。
翌31日はプロ17年目の石川雅規をたてて勝利を得た。昨季4勝14敗、昨年5月18日巨人戦以来での勝利以来11連敗中だった左腕の「勝ちたい」という思いを受け止め、勝負の分水嶺となる開幕2戦目のマウンドを託した。7回途中3失点と期待に応えた身長167センチの小さな大黒柱の懸命な姿に、「今日は何よりも石川の連敗が止まったのが一番大きい」と目尻を下げた。
2日もカツ、食べるわけないだろ(笑)。
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小川監督は験担ぎを好まない。それでも内面からわき出る勝利への“執念”が、2日連続の「ヒレカツ」モーニングを敢行しているかもしれない。もしや、開幕2戦目の朝ご飯も……。
「まさか。2日も続けてカツを食べるわけないだろ(笑)。ナイター(翌日の)デーゲームだし、朝が早かったから、ちょっと(パンを)つまんだだけだよ」
3戦目こそ1-3で惜敗したが、昨季の日本シリーズ進出チーム相手の開幕カードを2勝1敗と勝ち越した。「まだ始まったばかりだから」。代行を含め、一軍監督として650試合以上の指揮を執ってきた。「カツ」を食さなくても、「勝ち」をたぐり寄せるノウハウは持っている。
冷静沈着な仮面の下に“執念”をたぎらせる燕の指揮官・小川淳司を、侮るなかれ。