マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
2018ドラフトの稀少な捕手を発見。
スカウト注目の上武大・吉田高彰。
posted2018/03/25 09:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
3月上旬……立春もとっくに過ぎているのに、北から吹きつける風はまだまだ冷たく、日なたなら野球は見られるが、日陰や曇りの日には見るのもやるのも、野球はまだなかなかにきびしい。
それでも、春のリーグ戦が1カ月先に近づいていれば、選手たちも指先に息吹き掛けながらボールを投げ、バットを握る。
早春の野球は季節との折り合いをつけることが、まず最初の仕事になる。
明治大学vs.上武大学。
全国大会の決勝戦でもおかしくない顔合わせだから、オープン戦でも何人もの熱心なファンが明治大学野球場(東京・府中市)のネット裏に集まった。
春の本番を前にしたオープン戦は、あらかじめ投手リレーを決めておいて、リーグ戦で戦力となるメンバーを絞り込んでいくのが目的だから、2~3イニングで交代して複数の投手がマウンドにのぼる。
新3年、長江のボールが前に飛ばない。
その日の明大の先発は、3年生になる長江理貴(181cm87kg・右投左打・帯広緑陽高)。
中学時代はスピードスケートでも将来を嘱望されたという。どっしりと安定した下半身と全身のバネ、そしてパワー。明大・善波達也監督は、高校時代の彼を見て、遠投だけで「決めた」という話を聞いたことがある。
ストレートがなかなか前に飛ばない。見た感じ、それほど高速には見えないが、ホームベースの上で“来て”いる。
たとえば、上武大の3番を打つ吉田高彰(捕手・180cm78kg・右投右打・智弁学園高)は2年生の頃から学生ジャパンのユニフォームを着ているドラフト上位候補だが、そんな腕利きがポイントを前に置いて振っているのに、いくら振っても打球が一塁側へのファールにしかならない。完全に振り負けている。
上武大の右打者が、飛びのくように見送って、それがストライクになって三振しているスライダー。自分の体のほうに向かってきてから、スッと外に逃げていく球筋。元広島・黒田博樹投手がメジャーで身につけてきた「フロントドア」というやつだ。
長江理貴、そんな必殺兵器まで持っている。