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メジャー経験が「自分を変えてくれた」。
若手も教えを乞う、青木宣親の存在感。

posted2018/03/11 11:30

 
メジャー経験が「自分を変えてくれた」。若手も教えを乞う、青木宣親の存在感。<Number Web> photograph by Kyodo News

軟式用のバットを握り、軟式球を豪快に飛ばして子どもたちを喜ばせた青木。

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浜本卓也(日刊スポーツ)

浜本卓也(日刊スポーツ)Takuya Hamamoto

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 1カ月に及んだヤクルトの春季キャンプで、忘れられないシーンがある。

 2月11日の練習後、キャンプ地の沖縄・浦添の少年野球15チーム263人を対象にした野球教室が行われた。レッスンの最後は打撃指導。全員が本塁付近に集合し、挙手をした中で選手に選ばれた子供が、順番にロングティーをはじめた。

“異変”が起きたのは、終盤にさしかかったころだった。突然、グラウンドにどよめきと歓声が起こった。ある選手が子どもたちの間をかき分けるように登場し、バットを手に打席へと歩を進めていた。

 青木宣親外野手だった。

 サプライズ感を演出しようと、青木は用意周到だった。参加者の少年が着ていた、背中に「負けじ魂」と記されている黄色いTシャツをこっそり拝借。周囲に気付かれないようにしながら絶妙のタイミングで登場し、子どもたちを驚かせた。

 打席に立って喜ばせるだけで、サプライズは終わらなかった。鋭い目つきで、本気のフルスイングを披露。はしゃいでいた子どもたちが、食い入るように青木のバッティングを見つめはじめた。1球ごとに「うわー!」「すげー!」と感嘆の声が上がった。ラストの5球目がフェンス手前で落ちると、青木が「もう1球!」と自ら要求。ホームランの期待にこそ応えられなかったが、子どもたちはもちろん、保護者やファン、ヤクルトのチームメートまで大いに沸かせた。

「ミスタースワローズ」と称される理由。

 青木はチーム合流5日目で、心身ともに疲労はピークのはずだった。しかも、その日は沖縄にしては日差しも弱くて肌寒かった。それでも疲れたそぶりを見せず、少年少女を楽しませようと全力でバットを振った。この時期に、こんな粋なファンサービスをする選手はあまり記憶にない。大喜びする子どもたちの笑顔に、「なんかサプライズがあった方がいいかなと思ったのでね」と、ホッとしたように目尻を下げた。視野の広さ、周囲の期待に応えるプロ意識、野球を心から楽しむ純粋さ――。青木が「ミスタースワローズ」と称される理由を実感できた。

【次ページ】 ほとんどの後輩は青木と初対面になる。

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