球体とリズムBACK NUMBER
マリノスの超前衛戦術は実を結ぶか。
“偽SB”山中亮輔が語る怖さと自信。
posted2018/03/06 10:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
「今年のマリノスはつなぐつなぐって聞いてたけど、マジで(マンチェスター・)シティみたいじゃね?」
「去年と全然違うチームだよな」
柏レイソルのホームスタジアムのゴール裏は、金曜日の夜から多くの目の肥えたサポーターで賑わっている。3月2日の第2節で本拠地に迎えた横浜Fマリノスの前半のプレーを見て、彼らは口々にその印象を語っていた。
「山中(亮輔)なんて、あんなポジションにいるし」
少年時代から柏の下部組織で育ち、一昨季まで黄色のシャツを着ていたレフトバックは、アンジェ・ポステコグルー新監督が率いる新生マリノスのキープレーヤーのひとりだ。
ペップ・グアルディオラがバイエルンで始め、現在はシティでも採用する独特なサイドバックの動きが、オーストラリア人戦術家のもと、今季の横浜で実践されている。
“偽のサイドバック”(false sideback)や“転化型フルバック”(inverted fullback)とも呼ばれるその役割は、攻撃を構築する際に中盤の中央に入り、味方のオプションを増やし、ポゼッションを高めるためのものだ。
山中は前節のセレッソ大阪との開幕戦で、ペナルティーアークのすぐ外から見事なミドルで先制点を決めた。左サイドバックが中盤前方であれほどの時間とスペースを享受できたのは、新指揮官が掲げる最先端の戦術によるものだ。
J1では一昨季と昨季に1得点ずつしか記録していない24歳が、今季は横浜の最初のスコアラーとなった。新たな試みを楽しんでいるように、僕には見えた。
本人は中央でのプレーをどう思っている?
「いや実際は、楽しんでいるというよりも、けっこう必死です。試合に出るために、監督の求めることを表現できるように」
開幕戦の翌週のトレーニング後にその印象を投げかけてみると、山中はそう答えた。では新監督に求められている動きとは、どんなことなのか。
「ボランチみたいなプレーや、前を向いて(ボールを)運ぶこと。自分はずっとサイドでやってきたので、正直に言って、真ん中に入ると背後からのプレッシャーが怖いところもあります。でもその辺は練習や試合をこなしていくうちに慣れると思う。監督とコーチの指導をしっかり吸収していきたいです」