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リオ五輪銀メダルの『四継』秘話。
世界陸上直前に朝原宣治が読み解く。
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byTakashi Shimizu
posted2017/08/03 11:30
6月、直前の雨でトラックが濡れていた、日本陸上競技選手権大会の100m決勝。
決勝前のミーティングで語られた、重要な決断とは?
決勝は、予選と比べてリスクを取った走りをして結果を残したことが本当に素晴らしかった。
作中では決勝前に「どれだけ走者がスタートを切る目安の距離を伸ばすのか」というミーティングのシーンが出てきますが、そこでの数cmの決断が勝負を分けることになりました。土江(寛裕)コーチが「(リレーの肝は)もらうほうがいかに思い切り出られるか」という話をしていますが、まさにその通りだと思います。走る前に、どんな気持ちでいるのかというのは、チームのみんなが一緒じゃないとダメなんです。
例えば僕らの北京の時だったら、「まずは決勝を目指そう」という目標にみんなで一丸になる。
決勝に行ったら次は「メダルを目指しましょう」と。
みんなが当たり前のように思うことがちゃんとできていないとダメなんですね。
過去に組んだリレーメンバーの中では、社会人の選手にひとりだけ学生の子が入ってしまったことがありました。ひとりだけ浮かれていたというか、ちょっとふわっとしているな、ちゃんと準備ができていないな、ということもありました。そういう時はやっぱり、そこでミスが起こりますね。
末續、塚原、高平……と見事に繋がった思い。
北京五輪では、僕がずっと代表でやってきたことを見てくれた選手が同じチームになっていたので、もう「いまさら……」という感じでしたよね。
末續(慎吾)君が僕のこれまでの走りを見てくれていて、その末續君を塚原(直貴)君や高平(慎士)君が追いかけてくる。言葉じゃなくて、もう歩んできた道があって、それこそ悔しい想いを一緒にしたり、喜び合ったり、ライバルとして戦いあったり。その時になって急に「一丸になろう!」と心がけるというよりは、そこまでの歴史があってということなんですよね。
そういうものがあるから、四継では「絶対にバトンを渡してくれるはずだ」と思って思い切りスタートが切れるんです。