野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
暗黒時代の終焉と、三浦大輔引退と。
DeNAとファンが諦めと決別するまで。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/09/29 10:30
DeNAになってから右肩上がりで入場者は増え続けてきたが、今年は昨年からさらに5%以上伸びている。
この10年間、いろんな人と一緒にベイスターズを観た。
CSに出るまでの10年間、このスタンドで、いろんな人たちとベイスターズの野球を観た。見知らぬ隣人とどうすればベイスターズがよくなるか、試合そっちのけで議論をしたこともある。
オフには身売りが確定し、本拠地移転も噂されていたハマスタ最終戦で「来年もこの場所で会いましょう」と握手を求めてきたお兄さん、最下位が確定してボロ負けの試合でも必死にライジングを歌ってたあの子、KOされた高崎健太郎に「お前の力はこんなもんじゃねぇだろう!」と泣いていたおじさん。あと真剣に古木の明日を考えていた人たちとか。今ではもう会うこともなくなってしまった彼も彼女らも、この歓喜の渦のなかにいて、きっと言葉にならない喜びを噛みしめている。
「ベイスターズは地域と人を繋ぎ、世代を超えて家族を繋ぐ存在になる」
あの先が見えない暗闇の中で、前社長の加地隆雄さんはチームを信じてくれた。魂は見えないようで、必ずそこにある。横浜には魂があるんだ。加地さんの言葉がライトスタンドから聞こえる横浜市歌で甦ってくる。
親会社がDeNAになっても、南場さんはベイスターズを愛してくれた。池田社長、急激な改革は反発もあったのかもしれないけど、横浜を、ベイスターズを大事にしてくれてありがとう。
三浦大輔が、暗黒時代の終焉とともにチームを去る。
他の球団から見ればたかがCS出場なのかもしれない。だけど、ベイスターズにとってのCSは、2000年代から続いた長すぎるトンネルを抜け、やっと戦える舞台に戻って来たことの証明でもある。
滝沢賢治並に我慢強く、相手を信じ・待ち・許すを実践する監督。グラウンドには才能あふれる若い選手がいる。満員のスタンドも一緒になって戦っている。
ベイスターズは頼もしく、強くなった。
そんなことも三浦大輔が現役を引退する一因にもなったのだろうか。
引退に直面しての複雑な思いは1週間経っても未だまとめきれていない。
「いつか横浜を応援していてよかった。三浦大輔を応援していてよかったと思ってもらえるようにしたい。今はまだできていないけど、それでもやるしかないんですよ」
この10年間、そんなことを言い続けていた人が、暗黒時代の終焉と共にチームを去る。
その最終登板となる29日の試合、そしてその先に向けて、横浜の思いはひとつになっている。
3位からの下剋上、じゃない。横浜の三浦大輔だ。目指す場所への戦いは“成り上がり”と呼ぶのが相応しい。