野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
暗黒時代の終焉と、三浦大輔引退と。
DeNAとファンが諦めと決別するまで。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/09/29 10:30
DeNAになってから右肩上がりで入場者は増え続けてきたが、今年は昨年からさらに5%以上伸びている。
8月に気がついた、ファンに起こっている変化。
はじめて気がついたのは8月の中日戦だった。不調の山崎康晃が連打を浴びピンチを迎えた時、山崎がセットポジションに入るとスタンドの各所から祈るような拍手が自然発生的に湧き上がる。
9月8日のヤクルト戦、ビハインドの9回裏。桑原がファールで粘っている時も、凡退で終わった後もそうだ。CSを決めた19日のカープ戦8回、三上がピンチを迎えた時も、スタンドからは同じように拍手が聞かれた。
聞いたところによると、去年の後半ぐらいから要所要所で沸き起こるというこの現象。海の向こうのメジャーリーグや他球団では聞いたことがあったが、横浜でそれが起きているとは。
思い出すのは19年前、同じ9月のヤクルト戦。敗戦濃厚となった9回。雨で試合が中断した折に、スタンドから大量にメガホンやらゴミが投げ入れられ、それを選手たちが拾いに走った事件があった。長年の低迷で優勝争いを知らなかったファンは、この事件で本当の意味での応援するという事を知り、優勝へ向かって“選手とファンが一丸になること”ができた、と'98年のキャプテンを務めた駒田徳広氏は証言している。
わずか3年前のスターナイトでも同じような投げ入れ事件があった。
弱いチームの最大の特徴は諦めが早いこと。
弱いチームの最大の特徴は諦めが早いことだ。どうせ逆転される。惜しいところまで反撃するけど負ける。去年みたいに落っこちる。ダメなチーム。上手くいかない。なぜなら
「ベイスターズだから」
それは何をやっても上手くいかない、ダメな自分を慰めてきた言い訳とよく似ている。
必死になっても、裏切られて、傷つくことを恐れ、真正面から対峙することができない。そんなただれたファンの屈折した思いも、「CSに出たい」という選手の、スタンドの一体になった思いによって、ひっぺがされる。
心無い野次や誹謗中傷はいまだにある。だけどそれを打ち消すような思いが、不調の康晃に、なんとかしようと粘る桑原に、最大のピンチを迎えた三上に向けられる。
結果が出たことは嬉しい。だけどそれと同じくらいに、
「何が何でも勝ちたい」
そんな当たり前の感情をシーズンの最後の最後まで持てること。そしてこの球場にいる多くの人たちと共有できることが、幸せだった。