Jをめぐる冒険BACK NUMBER
川崎はポジションの概念すら“壊す”。
「DF田坂」は一見奇策、実はロジカル。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/09/14 11:30
福岡戦、後半37分にお役御免となった田坂。陰のキーマンぶりに風間監督も労をねぎらった。
オシムの「ポリバレント」を体現する戦い方の幅。
ふたつ目は、戦い方の「幅」だ。
残り時間が15分になった頃、福岡が負傷明けのウェリントンを投入してくると、すかさず川崎は田坂を左サイドハーフに移し、3-4-3から4-2-3-1に変更。2センターバックになったエドゥアルドと谷口彰悟が挟み込むようにしてウェリントンへの対応に当たった。
「ポリバレントな選手がいれば、メンバー交代をせずまったく違う戦い方ができる」
そう言って、ポリバレントな選手の重要性を強く訴えたのは、イビチャ・オシムだ。
「ポリバレントな選手」とは、戦術眼が高く、複数のポジションをハイレベルでこなせるタレントのこと。この元日本代表監督も、愛弟子だった阿部勇樹のポジションひとつで、3バックと4バックを自在に使い分けていた。ちなみに中村憲剛、長谷部誠、今野泰幸、鈴木啓太、阿部の5人のボランチを同時に起用したインド戦は、伝説的だ。
交代枠をひとつも使わず、3-4-3から4-2-3-1への変更を可能にした田坂は、“和製キミッヒ”と言ったところだろうか。ボランチが本職ながら、EURO2016で右サイドバックと右ウイングバックを見事に務め上げ、ドイツメディアに「ラーム二世」と絶賛された若きドイツ代表の姿がダブって見えた。
ケガ人続出の中で選手の組み合わせにも「幅」が出る。
3つ目は、選手起用の「幅」だ。
前述したDF陣に加え、天皇杯のブラウブリッツ秋田戦に出場した中野嘉大まで負傷し、台所事情が苦しい川崎にとって、田坂の起用は、選手の組み合わせやフォーメーションの選択に広がりをもたらすはずだ。
「うちのチームは、ポジションの概念がなくなりつつある」
そう語ったのは、中村だ。左サイドハーフの中村が中央に侵入すれば、右サイドハーフの小林が最前線に飛び出し、1トップの大久保嘉人が中盤に下がってくれば、ボランチの大島僚太やエドゥアルド・ネットがディフェンスラインの中央に入ったり、前線まで飛び出したりする。相手からすれば、掴みどころがない攻撃なのだ。
そこに、田坂のようなポリバレントな選手が加われば、ポジションレスのフットボールは、より一層磨きがかかるに違いない。