Jをめぐる冒険BACK NUMBER
川崎はポジションの概念すら“壊す”。
「DF田坂」は一見奇策、実はロジカル。
posted2016/09/14 11:30
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
一見、奇策のようで、実は理にかなったものだった。
セカンドステージ、年間順位ともに最下位に沈むアビスパ福岡を等々力陸上競技場に迎えたJ1セカンドステージ11節。試合前に配られたメンバーリストの川崎フロンターレの欄には、GK、4人のDF、4人のMF、2人のFWが並んでいた。
キックオフ直前、オーロラビジョンで紹介された予想フォーメーションは、FW登録の小林悠が右サイドハーフに入る4-2-3-1だったが、ディフェンスラインが4人であることに変わりはなかった。
ところが、ピッチに散らばった川崎の選手たちが描いた陣形は、3-4-3だった。そして、3バックの右に入ったのは、本来はサイドハーフなどを務めるMF登録の31歳、身長174センチの田坂祐介だったのだ。
「今週はずっとあそこでやってきて、自分の中では新しい感覚ですね。4バックの右はあるけど、後ろ3枚はこれまで経験がないですから」
ドイツの地で守備力が向上したMF田坂を3バックに。
実は、田坂の右センターバック起用は、2日前の紅白戦ですでに試されていた。トレーニング後、その狙いについて訊ねられた風間八宏監督は「個人的なことだけじゃなく、チームの中のこともあるし、それがどういう風になるかはこれからだから、そんなに取り上げてほしくない」と煙に巻いたが、その理由のひとつに、苦しい台所事情があっただろう。
川崎は現在、奈良竜樹、井川祐輔、小宮山尊信、登里享平と、多くのDFが負傷離脱中で、福岡戦ではベンチ入りしたものの、武岡優斗もケガを抱えている状態だ。
加えて、福岡の攻撃陣との相性もあっただろう。
川崎にとって福岡は、優勝の可能性もあったファーストステージ16節で痛恨のドローを演じた因縁の相手だ。その際、長身FWウェリントンの高さに手を焼き、金森健志の鋭い飛び出しによって2ゴールを奪われている。
そのウェリントンが負傷明けのため、スタメンではないという読みもあったはずだ。今回の対戦で福岡の前線を構成するのは、金森や為田大貴といったテクニカルでアジリティに優れた小柄なアタッカーたち。そんな彼らと対峙するのに、2012年夏から3シーズン、ドイツ2部のボーフムで対人能力やボール奪取力に磨きをかけた田坂は、打って付けの選手でもあったのだ。