プロ野球亭日乗BACK NUMBER
韓国に敗れた侍ジャパンの根本命題。
先発エースと強打者を揃えた「副作用」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2015/11/20 12:10
快投を見せた大谷翔平だったが、日本チームは決勝に進むことはできなかった。
リリーフとして“回またぎ”をする難しさ。
だが、一つだけ不安な面があるとすれば、シーズン中はずっと先発だった則本には、リリーフで回をまたいだときの気持ちの作り方についての経験がないことだ。
いきなり気持ちをトップギアに入れるのではなく、徐々にシフトアップしていく先発投手に比べると、リリーフはそれこそ心身ともに全開状態でマウンドに上がらなければならない。そこから回をまたぐ場合には、一度気持ちを落としてしまうためなかなか再び戦闘モードに入りづらく、そこがリリーフ投手の“回またぎ”の難しさだと言われている。経験豊富な中継ぎ投手やクローザーは、そういう気持ちの作り方を経験から熟知して難なくやってのけるのだが、果たして則本にそういう術があったのかどうか……。
実は韓国戦でも米国戦でも、則本は1イニング目は見事に三者凡退の完璧な投球内容だったが、回をまたいだ2イニング目にピンチを招いている。韓国戦では先頭打者に中前安打を打たれて、結果的には2安打1四球で2死満塁までピンチを広げた。米国戦でも1イニングめは目の覚めるような投球でピシャリと抑えながら、2イニング目には先頭打者に安打を浴びるなど2安打を打たれ、万全ではなかったのである。
そう考えると回またぎをさせるとしても、そこでの危機管理をしっかりしておくべき継投だったと言えるが、結果的にはそこが後手に回ったことが致命傷となってしまった。
交代機の遅れが命取りとなった。
8回を見事な投球で0点に抑えた則本が、9回に先頭の代打のオ・ジェウォン内野手に左前に、続く代打のソン・アソプ外野手に中前に弾き返されていきなり無死一、二塁のピンチを招く。ここでスイッチという手もあったが、まだベンチは動かなかった。
そして1番のチョン・グンウ内野手に三塁線を破られて1点を返され、無死二、三塁となっても小久保監督は我慢した。
「あそこは同点までは則本という気持ちだったが、次にデッドボールを与えたことで代えざるをえなかった」(小久保監督)
そうして2番のイ・ヨンギュ外野手に死球を与えたところで松井にスイッチしたのだが、もはや20歳の左腕にこの勢いを止めろという方が無謀だった。
松井が押し出し四球で1点差となったところで、慌てて増井にスイッチしたが、もうこの時点で逆転負けへのシナリオは完成していた。交代機の遅れが結果的には命取りとなったのである。