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G1の勝者は棚橋弘至だったが……。
中邑真輔が貫き通した、ある信念。 

text by

井上崇宏

井上崇宏Takahiro Inoue

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photograph byEssei Hara

posted2015/08/17 14:30

G1の勝者は棚橋弘至だったが……。中邑真輔が貫き通した、ある信念。<Number Web> photograph by Essei Hara

32分を超える激闘を終えたふたり。宿命のライバルであるふたりだが、実はG1決勝では初の対戦であった。

オカダ・カズチカ戦で、完全に満身創痍となった中邑。

 最後は腕十字からの三角絞め、そこからふたたび腕十字へと移行してオカダからタップを奪った。試合後、中邑は「あとひとつ、命を燃やそうか。イヤァオ!」と叫んだ。これは心の叫びだった。

 中邑は、序盤の場外戦で背後からオカダのドロップキックをくらって首を傷めていた。試合後はトレーナールームに直行し、しばらくして出てきたときには首から両肩にかけて驚くほど広範囲にアイシングが施されていた。その痛みは一時戦線離脱を余儀なくされた左ひじ負傷のそれをはるかに超えるものだったと後で知る。ただでさえ満身創痍だったのに……その時は、もはや誰も声をかけられるような雰囲気ではなかった。

「その言葉、そっくりそのまま中邑に返しますよ」

 16日、優勝決定戦当日。

 大会開始前、バックステージにトレーニングウェア姿の中邑がいた。まだウォーミングアップをしているわけでもなく、どうやら控え室とトレーナールームを行き来しているようだった。

「中邑さん。棚橋さんの根底にあるもの、わかりました?」

「わかんねえ。つうか、もうそんなの知らねえよ(笑)。自分のことで精一杯ですよ」

 そう言って控え室に引っ込んでからはもう試合まで姿を見せることはなかったが、明るいな、吹っ切れてるな、と感じることはできた。だが、それは逆説的にコンディションの悪さがいくところまでいったということを示しているようにも思えた。

 その少し後、今度は反対側の控え室から棚橋が出てきた。

 耳にヘッドフォンをしてなにやら集中力を高めているようだったが、その足はやはりトレーナールームへと向かっていた。ぼくがよっぽどコメントを欲しそうな顔をしていたのだろう、ヘッドフォンを外して「なに?」といった表情を見せてくれた。

「おとといの棚橋さんとAJの試合を観た中邑さんが、『棚橋弘至の根底にあるものってなんなんだ?』って言ってたんですよ」

「へえ。ああ、その言葉そっくりそのまま中邑に返しますよ。『おまえの根底にあるものってなんだよ?』って(笑)。俺もきのうの中邑とオカダの試合を観てそう思いましたから。異常にギラギラしてますよね」

【次ページ】 新日本プロレス暗黒期、2人は何を考えていたのか?

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