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「投げて打って守るだけでは勝てない」
センバツ大会、全11日間を総括する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2015/04/02 11:50
全試合で完投、603球を投げて自責点はわずかに2。エース・平沼翔太の活躍で敦賀気比は春夏通してはじめて全国制覇を成し遂げた。
敦賀気比の平沼は、昨年球種を見抜かれた経験が。
昨年夏の選手権準決勝では、立場は全く逆だった。平沼(当時2年)のセットポジションの位置から、次の球がストレートかフォークボールかカットボールか、大阪桐蔭各打者はすべて球種を見抜いていた。
試合後、私の疑問に球種を見抜く秘密を教えてくれた大阪桐蔭コーチから「(敦賀気比の)平沼はまだ2年生なので、クセが知られると可哀想なので書かないでください」と言われたが、「クセを放置したままのほうが可哀想なので書きます」と言うと納得してくれたことを思い出す。
そのことが敦賀気比ベンチに伝わったかどうかはわからないが、今年、平沼は見事にクセを解消して甲子園に戻ってきた。有友茂史・大阪桐蔭部長も、クセはわからなかったと試合後に話してくれた。
打者の迷いを消すのが監督の腕の見せどころ。
逆に敦賀気比ベンチは田中の投球を緻密に分析し、狙い球を絞った。今の高校野球は「投げて打って守るだけでは勝てない」ということである。
東海大四が浦和学院に勝ったあと、話を聞いた邵も似たようなことを言っていた。曰く、「左打者の狙い球はカーブとスライダー、右打者の狙い球はチェンジアップ。ストレートは変化球待ちのタイミングでも何とか対応できる」
浦和学院の左腕、江口奨理(3年)の持ち味はストレートと同じ腕の振りで投げる真縦変化のチェンジアップ、カーブ、スライダーである。この日の江口の変化球に、打者を翻弄するだけの角度とキレがなかったことは確かだが、捉えるのが難しい球であることに変わりはない。それでも、東海大四各打者のスイングには迷いがなかった。打者の迷いを解消することが腕の見せどころなら、両校の監督はそれができていた。
決勝戦は1-1のまま終盤戦に突入し、8回裏、敦賀気比の6番で背番号17の松本哲幣(3年)が放ったレフトスタンドへの2ランホームランで勝負が決した。この1死二塁のチャンスで、走者を還せば勝つ確率はグンと高くなる、そう考えれば慎重に球を見極めたくなりそうなものだが、打ったのはカウント1ボールからの2球目、つまりファーストストライクである。
前日の大阪桐蔭戦では1、2打席連続で満塁ホームランという史上初の偉業を達成した松本だが、その2本目のボールカウントも1ストライクからの2球目と勝負が早い。プロも含めた野球界で現在優勢な価値観は「積極打法、好球必打」。それがいかに有効かも、松本のホームランは物語っている。