マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
判官贔屓の観客が作る強者の重圧。
松山東の1勝を生んだ“残酷な心情”。
posted2015/03/27 12:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
センバツ5日目、第3試合。
この大会の15試合目にして、ようやく「面白い試合」を見た。
昨年夏の甲子園に続いて夏・春連続出場の二松学舎大付(東京)に勝負を挑んだのは、21世紀枠で82年ぶり2度目の出場の松山東(愛媛)だ。
片や激戦区東京の私立校、片や四国有数の進学校。
いくつもの運動部がひしめき合うグラウンド。内野ノックがやっとのスペースで、1日2時間の練習で鍛えたチームがセンバツにやって来た。
実はこの日、第2試合が終わったら帰ろうかと考えていた。筆者は東京在住なので二松学舎は夏も秋も見ているし、見るに堪えないような試合展開になっては気の毒だし。
そうはいってもせっかくの機会だから、好捕手の匂いを発散する二松学舎・今村大輝選手(2年)の成長ぶりだけ確かめていこうかと序盤を眺めていたら、どうも様子がおかしい。
82年間の思いを発散していた松山東応援団。
松山東が3回までを0-0でしのぐと、4回に2点先制。その後も、取り返されると突き放し、追いつかれてもまた突き放し、結局一度もリードを許すことなく5-4で二松学舎を堂々と寄り切ってしまったのだから驚いた。
この試合、前評判の「優劣」はスタンドもよくわかっていたのだろう。松山東の先取点にはネット裏がドッと沸いた。
加えて、三塁側アルプスをいっぱいに埋めた松山東応援団である。1892年創部で82年ぶりのセンバツ。82年前といえば「大正時代」目前である。
溜まりに溜まったマグマが大音響となって、なんとか踏みとどまろうとする二松学舎の選手達を呑み込んでいったように見えた。
「球場外にまだ400人ほどのお客さまが入れずにいます。席はできるだけ詰めてお座りください!」
アルプス席から聞こえてくる拡声器の叫びは、ネット裏でもあれだけはっきりと聞こえたのだから、マウンドで奮投する二松学舎の左腕・大江竜聖投手(2年)の耳にもきっと届いていたに違いない。
“勝負度胸”が投げているような彼が、マウンドで両手を広げて深呼吸を繰り返すシーンが何度もあった。