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「投げて打って守るだけでは勝てない」
センバツ大会、全11日間を総括する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2015/04/02 11:50
全試合で完投、603球を投げて自責点はわずかに2。エース・平沼翔太の活躍で敦賀気比は春夏通してはじめて全国制覇を成し遂げた。
爆発的な得点力のチームが少なかったことが幸いした。
地道にワンステップずつ成長した敦賀気比と東海大四が決勝まで勝ち進んだ。それは“地道型”の学校を蹴散らす破壊力を秘めたチームが少なかったということでもある。たとえば'11年の東海大相模(5試合で46得点)、'13年の浦和学院(5試合で47得点)のような学校である。1回戦を勝ち上がった学校の間では戦力差が小さく、それが「春は投手力」の伝統を復活させたと考えていい。
番狂わせが少ない大会と最初に書いたが、準決勝の2試合は番狂わせと言っていい。第1試合の敦賀気比11-0大阪桐蔭、第2試合の東海大四3-1浦和学院というスコアは、多くの人が正反対の結果を予想しただろう。しかし、両校には意地があった。
敦賀気比は昨年夏の選手権準決勝、大阪桐蔭戦で1回に満塁ホームランなどで5点を挙げながら、9-15という大量得点差で逆転負けを喫し、東海大四は昨年秋の明治神宮大会2回戦、浦和学院に0-10のスコアで6回コールド負けした。
東海大四の邵広基(そう かんぎ)(3年)は浦和学院戦後、「秋のリベンジをするつもりだった」と、その試合に込めていた強い意志を短い言葉で語っていた。敦賀気比ナインにも同様の気持ちはあったはずだ。
「サイン盗み」を相手が疑うほどに徹底された狙い球。
戦略的には、両校ともに「狙い球をいかに絞るか」という部分で緻密な読みがあった。敦賀気比の森茂樹(3年)によれば「低い変化球には手を出さず、狙いはストレート一本」という指示が試合前に出されていたという。
大阪桐蔭の左腕、田中誠也(3年)は緩い変化球しかなく、さらにこの日は変化球に従来のキレ味がなかった。投げた瞬間に「ストレートか変化球か」という見極めがついたと森は言うが、それでも田中の投げる球種の比率では変化球のほうがかなり多い。にもかかわらず、ストレートに狙い球を絞るという徹底ぶり、それが11得点につながった。
ちなみに、この大阪桐蔭戦と決勝の東海大四戦ではこんなことがあった。敦賀気比の攻撃中のこと、相手ベンチから選手が出てきて主審に何ごとか確認するシーンがあった。二塁走者が捕手の構えた位置を打者に知らせているのではないか、つまり「サイン盗み」が行われているのではないか、そういう確認を主審にしたのだと思う。
しかし、そのあとでも敦賀気比の確信に満ちたスイングは続いた。相手校が疑念を抱くほど敦賀気比の狙い球の絞りが徹底していた、そういうことだろう。森は「サイン盗みはしていません」と断言した。