欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
500人中、アジア人は藤田俊哉1人。
オランダで日本人が教える意味と壁。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byKyodo News
posted2015/03/13 10:45
現役時代にオランダのユトレヒトでプレーした経験も持つ藤田俊哉。かつて日本代表監督への意欲を示したこともあり、指導者としての成功が楽しみだ。
まず日本に持ち帰りたいのは、スポーツの価値。
欧州とは違い、日本はJリーグが誕生してようやく20年を過ぎたところ。野球という重厚な歴史を持つスポーツも存在しており、サッカーが欧州のように生活の中心にまで浸透することは、現状はまだ難しいと言わざるを得ない。
当然、藤田もそれを重々承知した上で、こう語る。
「日本には娯楽やエンターテインメントがたくさんあるのも事実。歴史も違うから単純には比較できないところはある。でも一人の日本の“サッカー人”として、いつか日本もこういう雰囲気になってほしいという思いになる。そして日本のスポーツ文化がより深まって、スポーツ自体の価値が上がることも大事。『スポーツは人間生活の中で重要なものなんだ』。そういう認識が国民の中で高まっていけば、経済の意識もよりスポーツに向けられる。お金も集まり、強化と環境の整備がより進んでいく。
この循環は、日本にいるみんなも理想として描いてはいるものだと思う。でも、なかなか実現にはまだ遠い。でも欧州に来て、あらためてその重要性と必要性を強く再認識することができたのは大きな経験。そこじゃないかな、指導者としての細かいことよりも前に、まず自分が日本に持ち帰らないといけないところは」
“フジタトシヤ”は認めても、日本サッカーはまた違う。
そうしたコミュニティの中で、藤田自身も当然一人の“サッカー人”としてはオランダでも尊重されている。しかし、外国人、ましてやいまだサッカーでは下に見られている日本の指導者が、オランダでコーチをすることの難しさは、また別の次元の話である。
「“フジタトシヤ”という一人の人間としては、みんなリスペクトしてくれている。それはあくまで個人のこと。日本サッカーを認めてくれているということとは、また違う。
もちろんVVVの会長(ハイ・ベルデン氏。本田圭佑や吉田麻也ら、日本人選手たちをクラブに受け入れてきた)は日本人に対しての理解も深いけど、コーチとしての契約は完全に力量の問題。プロである以上、クラブから使えないと思われれば、すぐに自分も終わりの身。ここでは外国人の立場だから、余計にそういう厳しい視線にさらされている。
クラブでの存在感? まだまだだと思うよ。もちろんこっちに来て1年経ったから、仲間として、人間としての関係はみんな良好にはなっている。でも、それが自分の指導者としての力かと言えば、また違う。そこはシビアに捉えないとダメだと思う。自分にはまだやらないといけないことがたくさんある。たった1年過ごしただけで、割と何でもできるようになってきたなんて思っていたら、完全にアウトでしょ」