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錦織圭、歴代のラケットを徹底検証!
プロ転向から2015年全豪OPまで。
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byAction Images/AFLO(L),Tennis Classic Break(R)
posted2015/01/20 10:30
ブリスベン国際での25歳の錦織と、ウイルソンと初めて契約した11歳の時の錦織。
長い負傷ブランクの間も着々と進化していたラケット。
●TOUR BLX ORANGE×BLUE(ツアー・ビーエルエックス オレンジ×ブルー)
新たに使用された素材であるバサルト・ファイバーは、火山の火口付近にある玄武岩を1500度の高熱で溶融して作り出す化学繊維。バサルト・ファイバーを配合することでインパクト時の不快な衝撃や振動を抑え、クリアな打球感が得られる。
「右肘の疲労骨折のため、圭君は2009年3月から翌2010年1月まで、ツアーを欠場しました。その長いブランク明けに、ちょうどウイルソンがニューモデルとして衝撃吸収性の高いラケットをリリースしたので、彼に使用を勧めたのです」(道場氏)
オレンジとブルーに塗り分けられたデザインも斬新だ。
「もともと彼はオレンジやイエローが好きなんですが、この頃からお気に入りの色に青も加わりました。だから『TOUR BLX』のオレンジ×青のカラーリングは喜んでくれましたね。一部のテニスファンの方々からは、『ウルトラマンみたい』と揶揄する声もあったりしましたが(笑)」(道場氏)
●TOUR BLX ORANGE×WHITE(ツアー・ビーエルエックス オレンジ×ホワイト)
松岡修造氏が記録した日本人男子選手最高位である46位に錦織が迫ってきたことを祝福する意味で、カラーリングのみを彼専用のものに変更。
「それに伴い、市販品も日本市場限定で同じカラーリングへと変更されました」(道場氏)
・使用時の年齢 21~22歳(2011~2012年)
・使用時の主な戦績 2011年11月のスイスインドア準決勝で世界ランク1位のジョコビッチを破り、最終的に準V。2012年、初のグランドスラム大会シードを得て臨んだ全豪オープンではベスト8に進出。2012年10月のジャパンオープンで初優勝、自身2つ目のATPツアータイトル。このシーズンは世界ランクを最高15位までアップさせた。
・素材 バサルト・ファイバー+カロファイト・ブラック+グラファイト
・全長 27.25インチ 重量 309g平均(一般市販モデルの場合)
・フェイス面積 95平方インチ
・販売当時の定価34000円
●「STeam PRO(スティーム・プロ)」
「STeam PRO(スティーム・プロ)」は、本来なら2012年の全豪オープンから使用する予定のモデルだったが、2011年秋にテストした際、「すぐにでも使いたい」と訴えるほど錦織が惚れこんだため、急遽スイッチ。その直後の11月にいきなりジョコビッチから金星を挙げた。
「TOUR BLX」までは、ウイルソンがワールドワイドで展開するモデルを錦織向けにチューンナップしてきたが、この「STeam PRO」以降、錦織のために一からオリジナルモデルが開発され、日本市場でのみ販売されることとなった。つまり彼のラケット作りに、ウイルソン日本支社がより直接的に関わるようになったわけだ。これは日本支社のラケット開発能力と、「錦織モデル」の日本市場での好セールスを、アメリカ本社が評価しているからにほかならない。
ウイルソン本社のラボには様々なラケットテクノロジーがストックされていて、その情報は日本支社も共有している。道場氏らが錦織とのやり取りの中でラケットに対する要望をくみ取り、それを実現させるためにストックの中からいくつかのテクノロジーをチョイスし、本社ラボにオーダーを出してプロトタイプを作らせる。そうして出来上がったプロトタイプに、錦織が試打して感じた印象をフィードバックさせながら微調整を加えていくのが、完成までの流れである。
「『STeam PRO』の開発時、圭君からは『打球時のフィーリングをもっとクリアに感じ取りたい』というリクエストがありました。フェイスのどこにボールが当たったかとか、ボールに対してラケット面が厚く当たったか、薄く当たったかなどの情報が鮮明に、雑味なくわかるラケットが欲しいと。そこでバサルト・ファイバーの配合量をより増やしてみたところ、彼の求める感覚にぴったり一致したというわけです」(道場氏)