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錦織圭、歴代のラケットを徹底検証!
プロ転向から2015年全豪OPまで。
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byAction Images/AFLO(L),Tennis Classic Break(R)
posted2015/01/20 10:30
ブリスベン国際での25歳の錦織と、ウイルソンと初めて契約した11歳の時の錦織。
グランドスラムで勝ち抜くためのラケットを作る。
・使用時の年齢 23~24歳(2013~2014年)
・使用時の主な戦績 2014年に世界ランクトップ10入り。2014年は全米オープン準優勝と、ATPツアータイトル4つを獲得。アジア人男子初のATPワールドツアー・ファイナルズ出場権を獲得。準決勝でジョコビッチに敗れたが、ATPランキングで自己最高の5位となった。
・素材 バサルト・ファイバー+カロファイト・ブラック+グラファイト
・全長 27.25インチ 重量 309g平均(一般市販モデルの場合)
・フェイス面積 95平方インチ
・販売当時の定価35000円
●STeam 95(スティーム95)
「優勝した2012年ジャパンオープンの準々決勝で第2シードのベルディヒを破った後、圭君が『彼のような選手にこれからも勝っていくためには、もっとディフェンス力を上げたい。劣勢の状況をイーブン以上に戻すため、やっと届いたようなボールでももっと深く強く返して、相手にダメージを与えたいんです』と漏らした一言から、このラケットの開発はスタートしました。ぐんぐん彼の順位が上がり、強豪選手との顔合わせが増えてきた頃でしたから、さらにランクアップするには、グランドスラム大会などでトップクラスの選手を打ち倒さなければならない。ベルディヒと戦う中で、今後一流プレーヤーと対戦して勝利を収めていくため、自分に何が必要なのかを実感したのでしょう。ただ、圭君からはもうひとつリクエストがあって、『今の打球感は変えないでほしいんです』と」(道場氏)
こうした二つの要望を叶えるため、アメリカ本社のラボが提案してきたのが、新テクノロジーの「パラレル・ドリル」だ。
通常、ストリングホールはフレームに対して垂直に開けられているので、正面から見ると放射状の穴の開き方をしている。そのためラケット面の上下左右数本を除いた他のストリングについては、フレームの外側から内側にストリングが入ってくる角度と、ストリングが引っ張られる方向に若干の差ができる。つまり、フレームの内側でストリングが接してしまうのだ。これに対しパラレル・ドリルでは、ストリングが引っ張られるのと同じ方向(水平方向)にストリングホールが開けられている。その結果、ストリングがフレームに接する部分が外側に移動。フレームの厚みの分、ストリングの可動域が広くなり、スイートスポットの拡大とパワーアップにつながった。
パラレル・ドリルが採用されたストリングホールは、トップ部の10穴と、左右両サイドの各14穴。すべての穴に採用すればスイートスポットはさらに大きくなるが、「打球感がぼやける」と錦織が嫌ったため、守備的状況になった場合、つまりラケットの先端寄りでボールを捉える時に使うトップ方向のスイートスポットだけを広げるべく、あえて限定的に採用した。そしてフィーリングを維持するため、フレームの素材やその配合率、構造などは「STeam PRO」からまったく変えていない。
「『STeam 95』も、本来なら2014年シーズンの頭から使用する予定だったんです。ところが完成品の出来に圭君がとても満足してくれまして、急遽2013年の7月から実戦投入することになりました」(道場氏)