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錦織が全豪で見せた世界5位の戦い。
あえて“守備的”にもいける新境地。
posted2015/01/21 11:20
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
グランドスラムの初戦が難しいというのは定説だ。格式が高く、誰もが勝ちたい大舞台。手に入るランキングポイントや賞金額も文字通り、桁が違う。選手の目の色が変わるから、選手のロッカールームにも普段と違う空気が流れる。そのひりひりするような雰囲気に、また、大会ごとに異なるコートサーフェスやボールに心身がなじむ前に迎える初戦は、もっとも自分の力が出しにくい環境と言える。
錦織圭には、さらに難しい条件が加わる。ひとつ前の四大大会、全米でグランドスラム初の決勝進出を果たした。ランキングもトップ5に入り、これまでの追う立場から追われる立場に急展開した。周囲のマークは厳しくなることが予想され、背中にかかる重圧は以前と比べようもないほど大きくなったはずだ。
ランク5位、「世界が変わった」錦織圭の全豪初戦は……。
錦織の父・清志さんは端的に「世界が変わった」と表現した。錦織自身は「5位は気にしても意味がない」とランキングの重圧を否定するが、少なくとも周囲の目は違ってきている。彼は今、否応なしに“ターゲット”の一人としてツアーに存在する。下位選手は番狂わせをもくろみ、上位は警戒を要する赤丸印として錦織と対峙するはずだ。
世界が変わってから最初のグランドスラム、全豪オープンの1回戦で錦織が当たったのは、ニコラス・アルマグロ(スペイン)だった。
どれだけ嫌な相手だったのか、試合後の錦織の言い回しが絶妙だ。
「1回戦(の相手)としては“タフさランキング”でトップ」
昨年は左足の故障でツアーを離れ、69位までランキングを落としているアルマグロだが、フォアハンドの強打と時速200キロを超えるサーブを武器に、2011年には世界ランクを9位まで上げた。対戦成績は1勝1敗。前回は'13年の楽天ジャパンオープンで当たり、錦織は3セットで敗れた。
最強のノーシードと言っても過言ではない。錦織に限らず、初戦では最も当たりたくない選手の一人だろう。別の見方をすれば、ランキングは高くなくても、こういう実力者がゴロゴロいるのが男子ツアーなのだ。