野ボール横丁BACK NUMBER
本当に努力は才能を凌駕できるのか?
“偉大なる凡人”小笠原道大という謎。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/01/19 10:30
ここ10年間、ほとんど3割30本塁打を記録している小笠原。どの打順に入ってもバントが少ないことでも有名
高校の監督が獲得をためらった程の平凡な選手。
小笠原の暁星国際時代の恩師である五島卓道は、今は木更津総合の監督を務めている。
あるとき別の取材で会う機会があったので、ここぞとばかりに小笠原のことについて聞いてみたことがある。
なぜ彼はあそこまでの選手になれたのか、と。
だが、ありきたりの答えしか返ってこなかった。当てるのはうまかったということと、練習熱心だったということ。しかし、そんな選手はいくらでもいる。
またこんな話も聞いた。
当初、五島は小笠原を獲得するつもりがなかったというのだ。小笠原が中学時代に所属していたチームの練習を見に行ったとき、本当は別の選手が目的だったのだが、そのチームの監督から懇願されて「内野で使えそうだから、まあいいかな」という程度の理由で小笠原を引き受けたというのだ。こんなエピソードで、ますます小笠原に対する謎は深まることとなった。
小笠原本人の理由としては……「バットは振った」。
実は小笠原本人にも数年前、この長年の疑問をぶつけてみたことがある。
「高校時代、本当に1本もホームランを打ったことがないのか?」などと幾度となく問い質してみたのだ。そうしたら「しつこいですねえ……」と、かえって呆れられてしまった。
小笠原は、ここまでの選手になれた理由を「バットは振った(素振り練習をした)」としか言わない。そして「それが多いのか少ないのかは、自分ではわからない」とつけ加える。誠実な答えだといえばそうだ。
実際のところ、どれだけ努力したかなど比べようがないのだ。
こちらも一流のプロ野球選手を分析しようとするとき、どこかで冷めてしまう時があるのだ。どう解説しようとも所詮は才能なのかもしれない、と。そして、そんな選ばれし人たちのことを軽々しく「努力でつかんだ」などと書く方がむしろ失礼なのではないかという複雑な思いまで出てくる。
だが小笠原だけは高校時代の「無名ぶり」を知っているだけに、努力する才能というのもあるのかもしれない、と信じたくなる。そして、ときにそれが素晴らしい才能をも凌駕してしまうことさえあるのかもしれない、と。