フットボール“新語録”BACK NUMBER
トレーナー・西本直が解説する、
中田英寿や本田圭佑の「背中」。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byYusuke Nishizono
posted2014/04/14 10:30
今年1月に行なわれた新春ドリームマッチ群馬2014に出場した中田英寿。現役を退いても、ドリブル中に背筋をピンと張ったその姿勢は変わっていない。
ゴール前で「体の前側」をうまく使うルーニー。
もはや伸びやかに背中を使っている時間はなく、瞬時の局面の打開が求められる。そのとき有効になるのが、コンパクトに「体の前側」をうまく使うことだ。これが2つ目の視点である。
西本は模範として、イングランド代表のルーニーをあげた。
「ルーニーは長い距離を走るときは背中をうまく使っているんですが、ボールを扱う瞬間に体を丸く小さくして、前側の筋肉を使う。背中側の筋肉は伸びやかで大きな動きに向いているのに対し、前側の筋肉は細かく小さい動きに適しています。ルーニーはボールを蹴るときにポンっとコンパクトに体を使っている。伸びやかさを利用するのではなく、体の筋肉をきゅっと固めるイメージです。だからキックがものすごく正確。荒々しいイメージがあったんですが、無駄に力を使わない。一点集中ができる選手です」
のこぎりを例にすると、この違いがわかりやすい。
ヨーロッパと日本ののこぎりでは、刃の向きが異なっている。前者は押すときに力を入れ(主に使われるのは伸筋。背中側の筋肉も含まれる)、後者は引くときに力を入れる(主に使われるのは屈筋。体の前側の筋肉)ようになっている。ヨーロッパの方がパワフルに切れるが、細かい作業に関しては日本の切り方が上だ。
サッカーのゴール前も、細かい作業が必要になる。ルーニーはその達人だからこそ、密集地帯からでもシュートを決めることができるのだろう。
メッシのドリブルは、合気道のよう?
メッシも「体の前側」をうまく使っている選手だ。
メッシはドリブル時に、体を前傾させて腕を前に大きく振る。エジルの背中を立て、腕を後ろでブラブラさせる走り方とは正反対だ。だが、前に出た腕をうまく使い、まるでスキー選手がスラロームのこぶをストックで突くかのように、相手にうまく当たりながらゴールに一直線に向かっていく。相手の足が地面についた瞬間に、その股関節を押す、という感じだ。
「メッシの最大の特徴は、腕の使い方です。彼は密集に好んで飛び込んで行く。それでも腕の使い方が絶妙なので、自分が倒れそうになっても、相手を押すことで自分の姿勢を立て直せる。まるで合気道ですよ」
ときに背中をうまく使い、ときに前側をうまく使う――。選手によって特徴があり、それぞれが武器になっている。
姿勢はいいか? 腕の力は抜けているか? ゴール前の密集地帯で瞬間的に体をコンパクトに使えているか? こういう視点を持つと、選手たちのまた別の魅力が浮かび上がってくる。