スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ポストシーズンとマネーボール。
~ワールドシリーズは“貧乏対決”?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/10/05 08:01
21年ぶりのプレーオフ進出を果たしたパイレーツ。“貧乏球団”が巻き起こした旋風はどこまで続くか。
お金の使い方の巧拙が勝負を決める。
今季限りでの引退を公表しているコミッショナーのバド・シーリグは、この結果を見て、ひそかに眼を細めているだろう。金満球団以外の球団に勝機を与えること、ならびにスモール・マーケットを繁栄させることは、彼が長年取り組んできたテーマだった。シーリグ自身、弱小球団ブルワーズのオーナーだった時代は、それなりに苦労を重ねていたにちがいない。
しかしまあ、ここで指摘したいのは、貧乏球団の逆襲といったルサンチマンなどではない。むしろ問題は、金の使い方の巧拙だ。たとえば、昨シーズンア・リーグ東地区の最下位に沈んだレッドソックスは、主力3人(エイドリアン・ゴンザレス+カール・クロフォード+ジョシュ・ベケット)を放出し、冬のFA市場で7名の選手(シェーン・ヴィクトリーノ+マイク・ナポリ+ジョニー・ゴームズ+上原浩治+スティーヴン・ドゥルー+ライアン・デンプスター+デイヴィッド・ロス)を獲得した。
放出した3人の年俸合計額は5700万ドル弱で、獲得した7人の年俸合計額は5300万ドル強。ナポリ(500万ドル)や上原(425万ドル)は明らかに給料以上の働きを見せて、ボストンのファンを大喜びさせた。
貧乏対決? 金満対決? はたまたプチブル対決?
レイズやパイレーツも金の使い方が巧い。レイズは主砲のエヴァン・ロンゴリアに250万ドル、パイレーツもチームの至宝アンドルー・マカッチェンに470万ドルしか払っていない。理由は単純。彼らの成長を見越し、才能が開花する前に長期の契約を結んだからだ。つまり、巧妙な先物買い。これに加えて必要なのは、他球団の有望で無名の若手を盗掘することと、子飼いの選手を育成することだろう。この3つが融合すれば、さして裕福ではない球団でも、十分に戦力を整備することができる。貧乏なレイズが過去6年間で4回もポストシーズンに進出できたのは、この戦略を地道に実践しているからだ。
とまあそんなわけで、金と権力が使いようであることは中学生にも自明の理といってよいだろう。ブレーヴスやパイレーツは、比較的安上がりのブルペン整備でここまでやってきたし、カーディナルスは子飼いを辛抱強く育成させて戦力を貯えてきた。パイレーツ対レイズの貧乏シリーズが実現する可能性はかなり低いが、ドジャース対レッドソックスの金満対決がすんなり実現する可能性も、同じほど低いと思う。なかを取るわけではないが、私はカーディナルス対タイガースのプチブル対決に現実性があるような気がする。