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南アの夜は死ぬほど怖かった!?
あるジャーナリストのW杯珍道中。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byLatin Content/Getty Images

posted2010/08/03 06:00

南アの夜は死ぬほど怖かった!?あるジャーナリストのW杯珍道中。<Number Web> photograph by Latin Content/Getty Images
雑誌『Sports Graphic Number』において、岡田ジャパンの大躍進を逐一描き、さらにスペインvs.オランダの決勝戦を巻頭レポートで発表したジャーナリストの戸塚啓氏。

感動的な記事の数々を現地から送ってきた戸塚氏だったが、現地活動の裏側には冷や汗をかくような事件もあり……Number Webが贈る、南アW杯を巡っての涙と笑いのサイドストーリー。

 恐怖とは常に相対的である。

 たとえば「この国のエイズの感染率は75%」と聞いて「うわぁ、そんなに高いの!」と思う人間がいれば、「何だ、25%は大丈夫なんだ」と思う人間もいる。

 恐怖は無知ゆえに増幅したり、また逆に鈍ったりすることがあるという。

 南アフリカW杯の取材を終えた僕は、帰国したその日から「で、どうでしたか?」という質問を受け続けている。問い掛けは打ち合わせと電話の数に符合していて、帰国から2週間で100回以上は聞かれた。さすがに少し、苦痛になってきている。

 6月9日に日本代表のキャンプ地ジョージに入り、南アフリカの数都市に合計35泊もしたのである。

 問い掛けてくる相手にすべてを語れるわけもない。

 かといって、何も伝えないのはあまりに無愛想だ。

 というわけで、僕はいつもこう答えている。

「思ったよりも安全でいいところでしたよ。もちろん、変なところには出かけませんでしたけどね」

 最初のひと言は、相手を少し驚かせる。そして、次のひと言で相手は納得する。このふたつの相反するセリフを出し入れすると、かなりの確率で相手は満足感を得てくれるのだ。

 7月22日に発売された『Number PLUS』の編集後記的コーナーで、南アW杯を巡る多くの関係者の思い出が○と×で綴られているページがある。僕も寄稿しているのだが、実は活字にしていないエピソードがあった。

 今だから笑える話というのはたぶんこういうものを指すんだろうな、というような情けなくも恐ろしい時を過ごした。というか、過ごすハメになってしまった、のだが。

レンタカー? 空港に着いてから手配すればOKだろ。

「どうします、レンタカー?」

「どうしますって……レンタカー以外は全部手配できたんだから、行くしかないっしょ」

 テレビを観ていた僕は、質問を払いのけるように答えた。南アフリカの国営放送SABCは、前日夜に行われた日本対パラグアイの再放送を流していた。

 6月30日の夜、僕はヨハネスブルクから50キロほど離れたプレトリアにいた。日本対パラグアイ戦が行われた街に、試合後も滞在していたのだ。宿泊したアパートにはキッチンと洗濯機がついていて、レストランとスーパーマーケットも徒歩圏内にあった。治安も申し分なく、快適さが保証されていた。

「じゃあレンタカーは、明日、現地の空港で探すってことで、いいですね?」

 ライター仲間のミムラユウスケが、何度目かの念押しをしてきた。コイツ、通称「サンペー」は最初のうちこそ太股に載せたパソコンをフル稼働させていたが、少し前からキーボードを叩く音が途絶えていた。“もうレンタカーのことは調べ尽くしましたよ!”というやんわりとした主張がのぞく。

痛恨のPKミスに思わずのけ反る駒野選手であった

「そんなのダイジョブだろ~。イーストロンドンからポートエリザベスへ行くヤツなんて、オレらぐらいじゃない? それに、試合当日の移動じゃないんだからさぁ。レンタカーの1台ぐらい、残ってるって」

 サンペーの抗議の視線を感じつつ、僕はテレビの画面に集中していた。

 PK戦、3人目、駒野……ああっ!

「トツカさん、じゃあ、いいんですね??」

 イイデス、イイデスッ! ドウニカナリマスッテ!!!

 南アフリカ入りしてすでに3週間以上が過ぎていた。僕と僕の周りの人間は、何ひとつトラブルに遭遇していなかった。強盗、置き引き、スリ、窃盗……僕らにとっては、どれもインターネットのニュースなどで知る不幸な出来事でしかない。

 警戒心は緩んでいた。いま振り返れば、かなり。

【次ページ】 車が無い!! 南アの見知らぬ空港で途方に暮れる。

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