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南アの夜は死ぬほど怖かった!?
あるジャーナリストのW杯珍道中。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byLatin Content/Getty Images

posted2010/08/03 06:00

南アの夜は死ぬほど怖かった!?あるジャーナリストのW杯珍道中。<Number Web> photograph by Latin Content/Getty Images

車が無い!! 南アの見知らぬ空港で途方に暮れる。

 7月1日の午後2時30分、ヨハネスブルク発のプロペラ機がイーストロンドン空港の滑走路へ降り立った。インド洋に面するこの街は、日本代表がキャンプをしていたジョージに似て気候が穏やかだ。

「やっぱり南の街はいいねぇ。ヨハネスとは大違いだなあ」

 厚めのコートを脱いだ僕とサンペーは、『CAR RENTAL』の矢印に従う。同じ方向を目ざしている人が意外と多い。誰も彼も妙に早足だ。穏やかな日差しをのんびり楽しんでいるのは、僕らだけだった。

「これ、ちょっとヤバくないですか?」

 サンペーの声に焦りが滲んでいる。自然にカートを押すスピードが速まっていく。僕も急ぎ足になっていた。

 レンタカー会社のカウンターが並ぶ白い建物に入ると、すでに行列が出来ていた。会社は7つもあって、行列もきっちり7つある。

「サンペー、両端から聞いていこう」

 サンペーが右端から、僕は左端から行列に加わる。「今日は予約でいっぱい。月曜日まで車は1台もないよ」という返事を3回連続で聞いたとき、サンペーが近づいてきた。彼も4回連続で同じ言葉を返されていた。

「イーストロンドンの街中にレンタカー屋がないか、調べてみますっ」

 モバイルPCを立ち上げたサンペーが、キーボードを荒っぽく叩いて検索する。市内に二つあることが分かったが、ひとつは電話がまったくつながらず、もうひとつは僕らにとって不都合な、しかし予想していたとおりの答えが返ってきた。月曜日までは、車は1台もないよ──。

目的地まで320キロ。バラ色のスケジュールが暗転する。

 南アフリカの地図を開いて、レンタカー会社の営業所がありそうな都市を探す。100キロ圏内ぐらいなら、タクシーの運転手にかなり吹っ掛けられても500ランド(日本円で約5500円から6000円)で行ける。ところが、150キロ圏内まで範囲を拡げても、レンタカー会社を見つけることはできなかった。

「マズいっすね、マジで……」

 すっかり人の少なくなった建物に、サンペーの弱々しい嘆きが響く。僕は何も答えることができず、ぼんやりと立ち尽くしていた。途方に暮れるというのは、こんなときにこそふさわしい表現だろうな、と思う。何もできないし、何も考えられない。

 それほど悪くない計画のはずだったのに。

 オランダ対ブラジルの準々決勝が行われる前日に、その開催都市のポートエリザベスから東へ320キロのイーストロンドンの空港でレンタカーを借りる。ポートエリザベスまで80キロほどの街にホテルを予約し、夕方にはチェックインを済ませる。開催都市でないために格安なオーシャンビューの部屋で、ビールでも呑みながら、原稿の構想を練って……。

 7月2日にオランダ対ブラジルの準々決勝が行われる影響で、ヨハネスブルク発ポートエリザベス行きの飛行機は前日からフルブッキングだった。地図を眺めていた僕とサンペーは、イーストロンドンを使った三角移動を思いついたのだった。

 フライトを意外なほどスムーズに確保できたことで、これは妙案だという自己満足の気持ちは膨らんだ。日本人の僕らが考えつく程度の移動手段なら、誰だって思い当たるということに、もっと早く気づくべきだった。

【次ページ】 捨てる神あれば拾う神あり? 怪しいバンでPEへ。

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