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2012年ドラフト会議を徹底検証。
阪神の上手い指名を初めて見た!
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2012/10/26 12:10
ドラフト1位指名の抽選で12連敗中だった阪神。「これは藤浪君の運ですね。甲子園のマウンドが似合う。チームは低迷しているが、新しいチームを作っていく、その一員になってほしい」とコメントした和田監督。
「入団の可能性はゼロ」は日本ハムに対して失礼では?
日本ハムの大谷1位入札に対して加藤良三コミッショナーの「私は結局個人の意思が尊重されるべきものと思います。(大谷と日本ハムの交渉は)私が予断するべきものではありません」とのコメントが日刊スポーツ紙に掲載されていた。
この言葉に代表されるように、ドラフトというとほぼ100パーセント、選手の気持ちとか人権という部分に光を当てられるが、球団も生き残りをかけて凄絶な戦いをしている、というのが私の感じ方である。当然、選手が成功を望むのと同じように、球団も繁栄を望む権利を持っている。日本ハムはドラフト1位枠を2年続けて放棄してまで、そういうメッセージを世間に発しようとしたのである。
大谷は「権利を抑圧されている若者」を演じさせられている!?
6年前に目を転じれば、06年ドラフトで“超高校級ショート”の堂上直倫(愛工大名電)に対して、中日、阪神、巨人の3球団が1位入札した。堂上は実父・照が中日の元投手で、当時は中日球団の寮長、兄・剛裕が中日の現役選手と、中日一色に彩られた球児である。しかし、「父と兄のいる中日以外ではやりたくない」とは言わなかった。だから阪神と巨人も入札に参加した。それがドラフトの精神なのである。
そういうことが大谷にはわかっていない。日本ハムの真摯な姿勢に対して、マスコミを前に「(入団の可能性は)ゼロです」と即答してしまった。大谷はまだ若いので、日本ハムというプロ野球の球団は「大人=権力者」、自分は「若者=非権力者」くらいの感覚で発言したのだと思うが、大谷くらいのステータスを持っている選手は日本ハム以上に権力者である。マスコミを味方につけ、プロ野球の側であるはずのコミッショナーまで心情的な味方につけ、大谷は「権利を抑圧されている若者」を演じさせられようとしている。それは非常に危険なことである。
ドラフトの精神を尊重する、大谷の誠意あるセリフが欲しかった。
大谷がメジャーを選択するのは一向に構わないが、日本ハムが自分を1位で入札した背景には「一番力のある選手を獲得してチームを強くして、ファンに支持してもらい、それが結果的にプロ野球全体の発展に寄与していく」というメッセージが隠されている。
球団が繁栄すれば選手も繁栄するのである。
それを思えば、「入団の可能性はゼロです」などと即答すべきではない。日本ハムの人間に会って、話を聞いて、熟慮して結論を出す、それが誠意ある態度に対する正しい対応の仕方であると信じる。