欧州CL通信BACK NUMBER
メッシの位置が勝負を決めた。
~原博実・サッカー協会技術委員長の目線~
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAlex Livesey/Getty Images
posted2009/05/30 06:00
バルサの攻撃的守備が、マンUのカウンターを完全に封じた。
無理やり蹴ったところでロナウドがドログバのように強いわけではない。つまりバルサは、ロナウドめがけた苦し紛れの1発狙いに攻撃を限定させたのである。ロナウドが活きるようなスペースへの効果的なパスを蹴らせなければ、怖くもなんともない。
今季のバルサの強みに、この「攻撃的守備」がある。パスを主体にして前に人が多くなるバルサ・スタイルというものは、ボールを失うと一転してピンチになる弱点を持っていた。しかしながら、グアルディオラ体制になってこの点が改善された。敵のパスを封じ込め、攻撃の組み立てをさせない守備もさることながら、ボールを失ったときにすぐ守備に入り、切り替え早く相手ボールに向かうことが意思統一されるようになった。これは、メッシ、アンリ、エトーのアタッカー陣にまで徹底された。カウンターのリスクは軽減されるし、むやみに下がらなくてもいい。センターライン付近まででボールを奪い返して再び攻撃につなげてチャンスにしていくというのは、歴代のバルサにはなかったものだ。
ベルバトフが先発で中央に入り、ロナウドがサイドだったら……
それにしても、CL準決勝で苦しめられたチェルシーの戦いをマンUが参考にしていれば、また違った展開になったかもしれない。バルサが、単純に放り込まれたときに相手2人を背負ってでも踏ん張れるドログバのようなタイプを苦手にしているのは明白。結果論かもしれないが、ボールを受けるのがうまいベルバトフが先発で中央に入って、ロナウドにサイドを突かれるほうがバルサにとっては嫌だったようにも思える。
マンUには様々な誤算があった。中央に入ったメッシのこともそうだし、バルサの守備力に加えて、あそこまでバルサのパス・スピードが速く、正確だったことも予想の範囲を超えていたであろう。そしてもうひとつ。1-0でリードしたバルサが引いて守らなかったことは、ファーガソンを焦らせたはずだ。
ファーガソンは立ち上がりに襲いかかって、後は手堅く、バランスを見てというふうに考えていたと思う。決勝戦というものは、こうやって戦うのだ、と。だから、バルサもリードしたら守ってくるのでは、と思ったのではないだろうか。バルサが引いてくれば、テベスやルーニーが活きたかもしれないが、バルサは攻撃的な姿勢を貫いて2点目を奪いにいった。マンUは明らかに動揺していたように見えた。後半にテベスやベルバトフが入ったところで、建て直しが利かなかった。バルサはいかなる状況でもバルサらしくあろうとした。ここに最大の勝因があったように思う。
スタンフォードブリッジの“奇跡”がバルサを強くしたのだ。
おそらく、CL準決勝、スタンフォードブリッジでの“奇跡”がバルサをたくましくしたのであろう。アビダルが退場して10人になったことで、開き直って攻撃的な姿勢を取り戻して、イニエスタがゴールを決めたあの夜の出来事が。
決勝で最後まで攻撃的な姿勢を貫けたのは、スタンフォードブリッジの教訓があったからにほかならない。