Jリーグ観察記BACK NUMBER
「支配」か、「コントロール」か。
~FC東京好調の要因~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byToshiya Kondo
posted2009/08/04 11:30
現在リーグ戦6位のFC東京(第20節終了時)。ナビスコ杯準決勝進出にも、ゴールで貢献した平山相太
今Jリーグで最も勢いに乗るチームのひとつ、FC東京の試合を観ていたら、ふと、ポルトガルの名将ジョゼ・モウリーニョの言葉を思い出した。
自伝『ジョゼ・モウリーニョ』(講談社)で、彼はこう綴っている。
「選手に対して、選択肢は2つしかないと話していた。つまり、ゲームを支配するか、コントロールするかのどちらかだ」
ここで『支配』とは、なるべく相手陣内でプレーし、どんどんゴールを狙っていくこと。『コントロール』とは、下がった位置でしっかりとパスを回し、攻撃のチャンスをうかがうことだ。どちらも主導権を握ることには変わりないが、前者の方がはるかにリスクが大きい。「ゲームを支配し、それができない場合はコントロールする」というのがモウリーニョ流だ。
今のFC東京は、この2つの切り替えが抜群にうまい。
ドリブルで切れ込んだ石川直宏のシュートがDFにあたっても、素早くMFの羽生直剛、梶山陽平、米本拓司がこぼれ球を拾って、第2次攻撃をしかける。かと思えば、流れによっては、DF今野泰幸を中心にゆっくりとボールをまわして、ペースをダウンさせる。FC東京が6月からナビスコカップを含めた公式戦で8連勝し、20節時点でJリーグの6位につけるのも納得がいく。ゴールを連発している石川に目が行きがちだが、自在にやり方を変える組織戦術も見逃してはいけないだろう。
状況に応じた臨機応変なサッカーができる理由とは。
なぜ、彼らはこれほど“臨機応変”なのか?
ボランチの梶山は、こう説明する。
「去年から“つなぐサッカー”をやり始めて、今年はさらに“遅攻”も課題にしてスタートしました。シーズンが始まった頃はメンバーが固まらなくて、うまくいなかい部分もあったんですが、(4月29日の)ガンバ戦くらいから後ろでボールをつないで時間を作れるようになった。それから勝ち始めて自信がつき、うまくまわす時間と、速く攻める時間のスイッチの入れ方がはっきりしてきたんです」
このスイッチのオン・オフがあるからこそ、石川の高速ドリブルや、平山相太のパワーがより生かされることになる。
「前の選手が疲れているときは、後ろの選手がボールをまわすようにしています。その間、前の選手はポジションを取り直すけど、そんなに力を使わないで休むことができる。だから、攻めのスイッチが入ったときに、前の選手がパワーを使えているのかな、と感じています」
まさにこれは、モウリーニョが言うところの「ボールを使った休憩」だ。