Jリーグ観察記BACK NUMBER
「支配」か、「コントロール」か。
~FC東京好調の要因~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byToshiya Kondo
posted2009/08/04 11:30
現在リーグ戦6位のFC東京(第20節終了時)。ナビスコ杯準決勝進出にも、ゴールで貢献した平山相太
選手各人が「主導権」というテーマを考え、実践する。
ただし、完成品を見て「切り替えがうまい」と言うのは誰でもできるが、それを一から作り上げるのは簡単ではないだろう。サッカーという刻々と場面が変わるスポーツにおいて、いつリスクを冒すべきか、いつボールをキープするべきか、起こりうる全ての場面に対して、模範解答を用意しておくことはできないからだ。
その秘訣は、「選手の自主性」にある。
ジェフ千葉時代にイビチャ・オシムの薫陶を受けた羽生は、城福浩監督のサッカーを「大人のサッカー」と表現した。
「城福監督は選手のイメージを大切にして、状況判断を全て任せてくれます。僕だったらスペースのほころびを見つけて、そこを埋めるのが持ち味。試合の流れを逆算しながら、自分で判断してピッチを動き回っています」
18歳ながらボランチのレギュラーに定着した米本は、こう説明する。
「監督からは、主導権を握るなら、ロングボールを蹴ってもいいし、パスをまわしてもいいと言われている。今は前から行くのか、後ろで組み立てるのか、1人ひとりのイメージが共有されていると感じています」
『主導権』というテーマだけを与え、細かいことは選手たちに任せる――。歯車の役割をガチガチに決めた機械ではなく、柔軟なシステムを作り上げる脳のやり方、とでも言おうか。時間はかかるかもしれないが、一度システムができあがれば、これほど心強いものはない。
とは言え、城福監督は、まだまだ先を見ている。
「サッカーにおいて、状況はボールが動くごとに変わりますが、全員がそれを把握して、判断できるようにしていきたい。1人が判断して、2人目が動いたら、次の瞬間には11人全員が同じビジョンを持つ、というように。それを年間を通してやりたい。ただし、うまくいく場面が増えただけで、まだ完璧ではないんです。痛い目にあいながら、頭に刷り込んでいる段階です」
選手の判断力を養う、城福監督流の戦術トレーニング。
余談ながら、城福監督の練習はとてもおもしろい。
「これから赤チームが、点を取るしかない状況で2分!」、「まずはDFラインを低くした場合、次に高くした場合をやるぞ!」、「相手が引いて守ったら、真ん中でパスを受けても状況は変わらないから、横にステップしてマークを外してもらおう」、「スペースがなかったら、センターバックの間でパスを受けよう」……。状況設定が細かいうえに、その対処法についてのアドバイスも実に具体的だ。モウリーニョの練習は見たことがないが、PSV時代のフース・ヒディンクの練習を連想させた。きっと世界中の戦術家たちは、似たようなアプローチをするのだろう。
幸運にも、FC東京の練習が非公開になることはほとんどない。もし戦術好きなサッカーファンがいれば、試合の2日前くらいから小平のグラウンドに通い、それがどうピッチで表現されるか、スタジアムで観察することをオススメしたい。試合の結果がどうであれ、最高の娯楽になるはずだ。