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野球クロスロードBACK NUMBER
「必要以上に劣等感を抱いてしまって…」甲子園で“全国制覇→準優勝”の名門が秋大会敗退で「3季続けて全国不出場」の異例…監督が語ったホンネは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2024/12/02 06:00
一昨年の夏の甲子園で優勝、昨年は準優勝と令和の高校野球を牽引してきた仙台育英。今年の苦戦を須江航監督はどう見ているのだろうか
それは、「選手にとって形容しがたい負けだった」という。
「今年の3年生というのは、1年生で優勝、2年生で準優勝を見せられた特殊な世代だったじゃないですか。『先輩たちとは違うんだ』と証明するために、まずは自分たちの代で甲子園に出る必要があって、本当に苦労しながら野球に取り組んできて。それでも甲子園に届かなかった。その悔しさというのは、これまでとはレベルが違うわけです」
捲土重来を期した秋も、ゼロから築き上げたチームは敗れ、来春のセンバツ出場も絶望的となった。須江が18年に仙台育英の監督となってから、3季連続で甲子園を逃すことになる現実は初めてのことである。
声のトーンを下げ、須江が心情を漏らす。
「なんか、ずっともやもやしていたというか、どうにもこうにもうまくいかなかった……。なんて表現したらいいのかな? 1年間、別の空間にいたような気がしています」
これは本音であっても弱音ではない。須江は、敗北という苦みを芳醇で味わい深いチームへと熟成させられる指導者だ。
「今年の秋から、仙台育英の“第3期”が始まった」
宮城大会4連覇を懸けた21年の夏に敗れ、敗因をくまなく検証して臨んだ新チームの秋も、投手陣を整備しきれずセンバツ出場を逃した。そんなチームが22年の夏に全国制覇を成し遂げたように、今度も仙台育英は新たな力を携え、また甲子園に帰ってくるだろう。
「今年の秋から、仙台育英の“第3期”が始まったと思っているんです」
須江が自信を覗かせるように、今度は声を張る。
「僕が仙台育英の監督になって、ただただ目の前の勝利に向かってチームを作ってきたのが“第1期”。22年に優勝してから今年の夏までが“第2期”と位置付けているんです。ありがたいことに、第3期のスタートとなる今年の選手たちは、先輩たちの負けの悔しさというものをしっかりと理解してくれていますから。これからスキル、フィジカル、メンタリティをうまく運営してくれるでしょうね」
東北に厳しい冬が訪れる。
葉を全て地面に落とし、風雪にさらされながら、春に新芽を吹かせるために耐え凌ぐ木立は、実に逞しい。
第3期を迎えた仙台育英はきっと、そんなチームになる。
<後編へつづく>